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ゾンビ日記 [著]押井守

[評者]松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学)

[掲載]2012年07月22日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■不気味で静かな狂気の世界

 東京の町を、ゾンビが徘徊(はいかい)している光景を想像してみよう。ただ無表情に、ぞろぞろと。行けども行けどもゾンビばかりで、生者は自分一人。そのことに気づいたとき、あなたならどうするだろう?
 本書の語り手は、ビルの屋上からゾンビを狙撃し始める。だがそれは嫌悪感からではなく、死者へのリスペクトゆえであり、死者の生(というものがあるとして)に終止符を打つため、と彼は説明する。彼は戦闘における人間の心理や軍の教育についても大変詳しく、専門家のような考察を行い、狙撃者の心理分析にページを費やしている。
 規則正しく狙撃ノルマを達成しようとする語り手の生活はストイックで自己完結しており、ある種の儀式のようだ。その「儀式」が他者の介入によって汚されたと感じたとき、彼は激しい反応を示す。驚愕(きょうがく)のラストは読んでもらうしかないが、クライマックスのあとの冷静な語りはなんとも不気味。静かな狂気の世界だ。
    ◇
角川春樹事務所・1470円


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