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魂の詩人 パゾリーニ  [著]ニコ・ナルディーニ

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2012年07月29日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■左翼で異端、背徳的想像力の源

 パゾリーニといえば同性愛のレッテルを貼られた左翼的異端のスキャンダラスな映画監督、という印象が強いけれど、どこか呪われた星の下に産み落とされた芸術家として英雄的に崇拝されていませんか。
 彼はイタリアのボローニャの田舎の原初的な農民世界の環境の中で絵を描き、詩作を試みながら将来は美術史家か文芸評論で身を立てようと模索の日々をおくる。彼の宗教的世界への郷愁と先天的な異端者としてのエロティシズムと、さらに背徳的な「得体(えたい)の知れない」想像力の混合体によって、彼の文学は形成されてゆく。
 その間、同性愛者としての彼は性的衝動からは逃れられないが、その一方で私設学校をつくり、教育者としての顔も持ったりする。この頃彼の政治的な弟は危険な「冒険的な人生」を選択した結果、組織の人間によって虐殺される。このことに起因するわけではないがパゾリーニは共産党員になる。だけど悪徳のDNAをもつ彼は、常にホモセクシュアルという宿命も背負っているためにスキャンダルから逃れることができない。
 そんなパゾリーニが終(つい)の棲家(すみか)として映画を選ぶことになる。映画を通して官能を刺激することで肉体的接触を求めようとするそんな彼と、なんとなくわが武智鉄二とは似ていませんか。
 パゾリーニはすでにフェリーニの「カビリアの夜」でシナリオ参加をしている。映画という視点を手にした彼は自己の世界観の核である「宗教的叙事詩」を神話的に描くことで「奇蹟(きせき)の丘」を完成。カトリック系の団体から賞を与えられたが、「テオレマ」では猥褻罪(わいせつざい)で作品が没収。
 「王女メディア」でマリア・カラスとの蜜月関係を取り沙汰されるが、すでに彼の死は5年後に迫っていた。同性愛のパートナーによって彼の人生が決着づけられたあの有名な事件が待っていたのです。
   ◇
 川本英明訳、鳥影社・1995円/Nico Naldini イタリアの言語研究家で詩人・作家。パゾリーニのいとこ。

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