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スウィング・ジャパン―日系米軍兵ジミー・アラキと占領の記憶 [著]秋尾沙戸子

[評者]後藤正治(ノンフィクション作家)

[掲載]2012年08月12日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■ジャズと日本文学、才磨いた人生追う

 太平洋戦争の勃発によって、在米日系人は「敵性国人」となり、強制収容所(キャンプ)へ隔離された。その数11万余人。多くは米国で生まれた2世たちで、17歳のジミー・アラキもその一人である。本書は、アラキの起伏に富んだ旅路をたどった人物ノンフィクションである。
 アリゾナ州ヒラリバー。有刺鉄線で囲まれた不毛の地で、日系人は農産物を育て、学校を開いた。ダンス教室もあって、アラキはバンドのメンバーとなる。音楽的才は天賦のもので、母の琴でポップス演奏をやってのけたとある。
 合衆国に忠誠を誓うか——。アラキはイエスと答える。「この国で生まれたアメリカ人だから」。陸軍情報部日本語学校の教官となり、終戦後、連合国翻訳通訳部の一員として来日する。
 夜はジャズメンとなる。あらゆる楽器をこなし、編曲し、レコードを制作した。日本人ミュージシャンたちは、フレンドリーなアラキを「神様」と敬愛した。
 除隊時、軍での評価は「性格」「体力」が優秀、「知識」「任務遂行」は最優秀。エリートへの道が開け、高名な楽団からの誘いもあったが、アラキが選んだのは日本の中世文学を学ぶ道だった。
 カリフォルニア大学バークレー校大学院に在籍しつつ、京大などで学び、信長が舞った「幸若舞(こうわかまい)(敦盛)」を郷土芸能として残す福岡地方も訪れている。「日本人の血には何か不思議な魔力がある」。それは自身のアイデンティティーを探る歩みでもあったろう。
 研究は能、文楽、芭蕉へ、現代文学へと広がる。ハワイ大学教授時代には、川端康成、井上靖らと親交を深め、井上の『天平の甍(いらか)』などの英訳も手がけている。
 著者は、埋もれた資料を掘り起こし、日米各地に足を運んでいる。収容所や敗戦の日々を語れる人は少なくなったが、フットワークの良さで困難をカバーしている。「アラキの目線に沿いながら、北米移民に特化して現代史を複眼的に捉え直す試み」は、その目的を十分達成している。
 日系2世の奮闘では、ハワイの志願兵たちによる「442歩兵連隊」を想起する。欧州戦線でドイツ軍と戦い、米陸軍最強とまでうたわれた。自らの血によって〈祖国〉への忠誠を明かした。本書によって収容所世代のもうひとつの航跡を知る思いがする。
 ジミー・アラキとは何者だったのか。日系2世で、ジミーと離婚しつつも最期を看取(みと)ったジャネット夫人の「ロマンチスト」という言葉が印象的だ。時代が、彼をジャズと日本文学へと導いた。選択を促したのはロマン的な資質であろう。才は磨かれ、〈二つの祖国〉に恩恵をもたらした。源はともにアリゾナの砂漠に発している。
    ◇
 新潮社・1890円/あきお・さとこ 名古屋市生まれ。テレビキャスターを経てノンフィクション作家に。ジョージタウン大学大学院外交研究フェローとして米国に滞在したのを機に占領研究を始める。『ワシントンハイツ GHQが東京に刻んだ戦後』など。

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