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天一一代―明治のスーパーマジシャン [著]藤山新太郎

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2012年08月12日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■奇術の歴史と哀歓、正直に記録

 日本の奇術業界の草分け的人物の評伝である。著者自身も伝統を引き継ぐ奇術師で、先達の素顔を明らかにすることにより、奇術の歴史やそこに関わった人たちの哀歓を正直に記録にとどめようと意図していることがわかる。
 とにかく松旭斎天一(本名・牧野八之助)という奇術師は、破天荒な性格であったらしい。著者は「天一の話は話半分に聞かなければならない」といった表現をしばしば用いる。幕末に下級武士の子として生まれ、悪童育ち、そのうち芸人と接して音羽斎(おとわさい)某という手妻(てづま)師(奇術師)の弟子になる。名のある人からは断られたのだとか。
 しかしこの師匠のもとで水芸を身につけ、一座を率いるほどにのしあがる。当初はイギリス帰りと偽るなど、その前半生が奇術のようなものだ。やがて実力をつけて、中国やアメリカでも人気を博す。弟子たちの葛藤を含めて、著者の描く人物像は近代日本の大衆演芸の底力を見せつけている。そこに魅(ひ)かれる。
    ◇
 NTT出版・2415円

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