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犬はあなたをこう見ている [著]ジョン・ブラッドショー

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2012年08月19日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■飼う側の頑迷固陋が問われる

 ペットが家族の一員とみなされるようになって、久しい。家族だからこそ、喪失のショックも深刻である。昔だってペットロスはあったが、現代ほど重大事に考えられていない。それなら私たちは、どれだけペットの心を理解しているだろうか。たとえば、犬。
 犬は狼(おおかみ)の子孫だから、群れの習性を持つ、と教えられてきた。群れには統率者がいる。犬のしつけには、リーダーの役割が必要とされた。犬は家族の誰が支配者か、ぬけめなく観察している。ひそかに序列さえつけている。飼いぬしをかむ犬は、自分こそリーダー、と威嚇しているのだ。
 飼いぬしより先に、食事をさせてはならぬ。決して、犬に弱みを見せたり、へつらってはいけない。良いことをしたらほめ、悪いことをしたら体罰を与える。その他。
 犬のしつけはこうあるべきだと思い、少なくとも評者はそのようにしてきた。大抵の犬の本に如上(じょじょう)の事柄が記されていたからである。
 本書の著者は、その認識の多くが誤っている、と主張する。犬の祖先が狼であるには違いないが、狼の性質を犬のしつけに応用するのは間違っている。犬はイヌ科の動物であって、一番近い親戚が狼と考えた方がよい。
 これは言われてみて、なるほどと思ったのだが、人間が狼を飼いならして犬にした。その草創期は成長した狼を訓育したのでなく、当たり前のことだが、赤ん坊の狼がかわいいからペットとして育てたのである。どんな獣も最初から凶暴ではない。犬のしつけも生後三カ月から四カ月の間に行うことが肝要、という。犬が人間になつくのは、仔犬(こいぬ)の頃に優しい人間に出会った時に限られる、という(これは人間だって同じだ)。本書の教えがすべての犬に通じるわけではない。犬にも個性がある。むしろ、画一的な見方や考え方は避けよ、という一つの教訓だろう。犬を飼う側の頑迷固陋(がんめいころう)が、問われているのだ。
    ◇
西田美緒子訳、河出書房新社・2310円/John Bradshaw 英国ブリストル大学獣医学部の客員研究員。

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