書評・最新書評

宇宙怪人しまりす 医療統計を学ぶ―検定の巻 [著]佐藤俊哉

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2012年08月19日

[ジャンル]医学・福祉

表紙画像

■医療での因果関係追究に必須

 宇宙怪人しまりすは、京都大学医療統計学教室に留学中。圧倒的科学力を誇るりすりす星出身で、戦争ばかりしている地球を征服して平和にしようと来訪した。ところが平和なりすりす星には、風邪や腹痛くらいしか病気がなく、医療統計や疫学の知識が遅れている。征服しても地球人の健康を守ることができない! しまりすの勉強の日々が始まった……という人を食った設定の統計学入門物語。
 医療の世界で統計学がいかに大切か。新しい薬が効くか効かないかを判定するのはもちろん、今、臨床で標準となっている「科学的根拠に基づいた医療」の根幹をなす。密接な関係にある疫学とともに、医療における因果関係を追究するために必須といえる。
 シリーズ2巻目の本書のテーマは「検定」だ。観察された現象が、実際にどれだけ確からしいかその程度を推定するとても大事な方法だが、誤解も多い。物語では、地球の風邪薬ヨクナールが、りすにも効くかどうか確かめる。一見効果がありそうでも、検定で「有意でない」(効果ありと断言できない)となることもあるし、有意でなくとも捨て置けない場合もあるという、複雑なさじ加減を理解する。
 研究を歪(ゆが)める様々なバイアス(偏り)についても語られる。計画段階から被験者や環境の偏りを排しておかないと結果が変になる。しかし一見バイアスのようで結果を歪めない「偏りのない誤分類」もあり、そこも押さえておきたい……等々、話題はつきない。
 なお本書を紹介すると必然的に前作の併読を奨(すす)めることになる。例えば「喫煙者が減ってもがんは増加」と主張する人は、前作で「年齢調整」という概念を知るべきだ。がんは高齢者ほど多く人々の寿命が延びると増える。それを織り込んで評価する基本を知らないと困ったことになる。
 しまりすと楽しく学ぶ医療統計は、現実世界を生きるための知識という力となる。
    ◇
岩波科学ライブラリー・1260円/さとう・としや 59年生まれ。京都大学大学院教授(医療統計学)。

関連記事

ページトップへ戻る