書評・最新書評

気象を操作したいと願った人間の歴史 [著]J・R・フレミング [訳]鬼澤忍

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2012年08月26日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■大きすぎる工学に歴史の教訓

 著者は雲物理の研究歴があり、気象改変の歴史研究を専門にする科学史家。先住民の雨乞いから始まり、19世紀の大砲を使った降雨技術、各種化学物質を蒸散させる方法、更には20世紀、飛行機で粒子を播(ま)く人工降雨や大気圏遥(はる)か上空で水爆を爆発させる実験まで! 天候改変の試みの歴史書としてまずは興味深い。
 その上で現在地球工学と呼ばれる地球規模の気象改変構想に切り込む。例えば「温暖化」に対抗するため、宇宙に鏡を打ち上げ「日傘」にする。硫酸塩を高層大気に散布し太陽光を反射させる。海で藻を大発生させ二酸化炭素を取り込む。結果、空に影ができ、空が白くなり、海がどろっとした緑になるかもしれないが。
 これらの構想には、ある種現実離れした滑稽さを感じないだろうか。しかし気候変動への積極策としてこの手の議論は今後増えそうだ。著者は「歴史の前例とは無縁だと思い込んでいる」地球工学者にこそ「歴史的前例」が必要という。なぜなら連綿たる気象改変の歴史は、つまるところそれが単純ではなく、想定通り目標が達成されるのは希(まれ)だし、思わぬ副作用を伴う可能性を示して余りあるからだ。
 ノーベル賞学者ラングミュアの挿話が象徴的だ。「病的科学」の概念を提唱した本人が、後半生、自ら病的科学者になった。ハリケーンの進路を変えられると信じ、統計学的に否定されても自説を曲げなかった。彼はおそらく間違っていたが、もし正しかったとしても、人工的にねじ曲げたハリケーンの行き先の都市や国には当然責任が生じる。「病的科学だけでもやっかいだが、病的エンジニアリングは実際に大災害を生み出してしまう」と著者はいう。
 大きすぎる工学は思わぬ所で破綻(はたん)する可能性がある。原発事故を経験した我々はすんなり理解できるだろう。十分な謙虚さと畏怖(いふ)を持ちつつ効果的で公正な解決を実現できるか。歴史を通じ問いかける。
    ◇
紀伊國屋書店・3360円/James Rodger Fleming 米国コルビー・カレッジ教授(科学技術史)。

関連記事

ページトップへ戻る