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新しい刑務所のかたち 未来を切り拓くPFI刑務所の挑戦 [著]西田博

[評者]山形浩生(評論家)

[掲載]2012年08月26日

[ジャンル]社会

表紙画像

■民間の創意で「塀の中」変革

 十年以上前、本書のテーマとなる、公共施設の整備運営を民間に任せるプライベート・ファイナンス・イニシアチブ(PFI)制度の海外事例を調べたことがある。単なる民間事業委託ではない。事業の自由度を高め、民間の創意工夫の活用で、低コスト高サービスの提供がPFIの真骨頂だ。前例主義や形式主義、事なかれ主義のお役所がそうした自由度を容認するかが課題の一つとなる。
 そんな自由度の最もなさそうな刑務所で、この制度が導入されたのがまず驚きだ。
 だがそれは、うれしい驚きではあった。著者はこのPFI制度の導入を機会に、刑務所自体の大幅な改革を実施する。閉ざされた「塀の中」ではない、開かれたコミュニティー刑務所の取り組みだ。社会に刑務所を開き、その活動を知ってもらうことで、迷惑施設にとどまらない意義(と税収)を持たせる一方で、受刑者の人格を尊重し、生産活動参加を通じた更生支援を強化した、社会復帰促進センターとしての刑務所を著者は見事に実現したという。
 欲を言うなら、事業面についてはもっと知りたい。国がやるより安あがりにできたのか? パフォーマンス指標などは? 他の事例でも参考にしたいところだ。今後の公共インフラの整備運営危機については、本欄でとりあげた根本祐二『朽ちるインフラ』などが指摘した通り。そうしたインフラの一部でもこれだけの工夫が実現すれば、問題の相当部分は解決しそうだ。
 だがPFIという制度だけで勝手に改革が実現するという甘い話ではない。PFI導入を口実に、著者は特に公共側の刑務所観変革をも促す。成功の鍵は、PFIよりもその部分にありそうだ。それは読者にも、刑務所の実態と今後のあり方を大いに考えさせる。実用書ながら、制度のアンチョコにとどまらず、法執行やインフラの未来など視野の広がる一冊だ。
    ◇
小学館集英社プロダクション・1890円/にしだ・ひろし 54年生まれ。法務省大臣官房審議官。

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