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寅さんとイエス [著]米田彰男

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2012年09月02日

[ジャンル]人文

表紙画像

■実は意外と似ています

 「男はつらいよ」をわれわれはどう見たか。僕は登場人物や事物をユングの元型の考え方に当てはめて見ていた。トリックスター、太母、老賢人、アニマ、アニムス、ペルソナ、影、死などの元型が人物に付与されることで個々の性質の説明がついたものだ。毎回、寅さんが見る夢を人類の普遍的神話と勝手に解してユング的世界観で寅さん映画を堪能していました。
 ところが、そんな寅さんと実はイエスが類似していると、映画と聖書を比較しながら具体的に実例をあげて神父さんが解明していく書籍に出会った。寅さんもイエスも故郷を捨てた風天である。風天は徹底的に「暇を生き抜く」自由人であるが、女性には触れない。「情欲をもって女を見る者は心の中で姦淫(かんいん)したも同然」(マタイ伝五章)となかなか手厳しい。「男はつらいよ」の最終回で寅さんはリリーさんの肩を抱こうとして肩すかしを食う。姦淫未遂に終わる寅さん? とはいうもののイエスも色気があったと言う。いずれにしても両者とも「野生の革命家」かつトリックスターである。
 本書の四章で著者はユーモアについて興味深い考察を展開する。寅さんはユーモアが服を着て歩いているようなものだが、イエスは真逆(まぎゃく)の堅物人間かと思いきや実際はユーモア人間で、絶望の底で苦悩する人々をユーモアで救う道化を演じ、自己を無化し、回心に導いたと著者は言う。
 ここで提案。両者がそんなに類似しているのなら、2人のキャラを交換したらどうだろう。寅さんをイエスそっくりにし、話の内容はいつも通りだが、話術はイエスの口調で。またイエスには寅さんばりの下町言葉で民衆相手に説教を。2人とも型破りの生き方を示してきただけに、聖書は面白く書かれ、寅さんイエスは宗教を超えた新しい時代の芸術として人間回復をモットーにした創造的社会を提示する、と夢・幻・現の中で僕は本書を静かに閉じた。
    ◇
筑摩選書・1785円/よねだ・あきお 47年生まれ。神父として、かつて東京都江東区にあった「蟻(あり)の町」で働いたことがある。現在はカトリック司祭、清泉女子大教授。著書に『神と人との記憶——ミサの根源』など。

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