「ロシア宇宙開発史」書評 米とは別の技術の系譜
評者: 山形浩生
/ 朝⽇新聞掲載:2012年09月09日
ロシア宇宙開発史 気球からヴォストークまで
著者:冨田 信之
出版社:東京大学出版会
ジャンル:技術・工学・農学
ISBN: 9784130611800
発売⽇:
サイズ: 22cm/486,18p
ロシア宇宙開発史 気球からヴォストークまで [著]冨田信之
ロシアの宇宙技術は、テーマとしてはマニアックながら、アメリカとは別の技術的な系譜として興味深いもの。本書はその歴史を、帝政ロシア(いやそれ以前)からフルシチョフ失脚による最盛期の終わりまで、ロシア語文献を駆使しつつ詳細に記述。英語では標準文献のオーバーグ『軌道の赤い星』も邦訳がない現在の日本では、この分野でほとんど唯一無二の本ではないか。一度回収され、満を持しての刊行はうれしい。
神話化しているロケットの先駆者ツィオルコフスキーの業績などもきちんと相対化し、技術と政治と人間ドラマのからみあいの書きぶりも見事。コロリョフも限界はありましたか……。
いずれ本書の先のミールや他国への技術流出の歴史、さらに巻末で触れたソロヴィヨフ哲学の影響などについてもぜひまとめていただきたい。ロシアの宇宙技術にとどまらない、技術伝搬と発達の歴史全般に興味がある方にもおすすめだ。
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東京大学出版会・5670円