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「スパイにされた日本人」書評 愛憎と曲折、娘の視点でつづる

評者: 逢坂剛 / 朝⽇新聞掲載:2012年09月16日
スパイにされた日本人 時の壁をこえて紡ぎなおされた父と娘の絆 著者:エドナ・エグチ・リード 出版社:悠書館 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784903487588
発売⽇:
サイズ: 20cm/247p

スパイにされた日本人 [著]エドナ・エグチ・リード

 1920年代、ロンドンに留学中のタキこと、江口孝之は英国女性と結ばれ、娘エドナらの子供に恵まれる。
 本書は、エドナによる父親タキの回想、という形式をとる。一家にとって、タキはよき父親ではなく、浮気で身勝手な男、という存在でしかない。真珠湾開戦の前年7月、タキは政治的な理由でスパイの嫌疑をかけられ、逮捕されて収容所に送られる。
 その結果、エドナたちは周囲から白眼視され、さらに日英間に戦争が始まるや、敵国人の一家とみなされて、ますます苦境に陥る。そうした経緯からエドナは父親に愛憎半ばする、複雑な感情を抱く。しかし、年とともに思慕の念を募らせ、戦後父親が日本へ送還されると、手紙を出して和解の道を探り始める。
 当然のことながら、本書はエドナの視点で構成されているため、タキの心情が十分に描き切れていない。さりとはいえ、氷が解けるまでの長い道のりは、つらい中にも心を打たれるものがある。
    ◇
加藤恭子・平野加代子訳、悠書館・2100円