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ヒーローを待っていても世界は変わらない [著]湯浅誠

[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)

[掲載]2012年09月23日

[ジャンル]政治

表紙画像

■面倒な民主主義と向き合う

 2008年末の年越し派遣村で村長として活躍した湯浅誠。彼は通算2年、内閣府参与を務め、現在は大阪を拠点に活動する。民間と行政を経験した湯浅が考える民主主義とは何か。橋下徹現象をどう見るか。
 民主制は、どこまでも面倒くさい。多様な人々の異なる意見を闘わせつつ、互いに調整しなければならないからだ。しかし、特定のテーマに強い執着を持っている人ほど、「自分はわかっている」と思っているために、冷静に異なる意見を聞くことができない。相手をすぐに否定したがる。しかも粘り強く調整を行っていると、なかなか物事が決まらない上に、様々な妥協を強いられる。
 すると、どうなるか。多くの人々がイライラし始め、「決めてくれ。ただし自分の思い通りに」と考えるようになっていく。ここに利害調整の拒否を伴うヒーロー待望論が出現する。
 この現象は、政治システムへの不信と直結し、議会政治や政党政治への否定につながる。とにかく議会制民主主義はまどろっこしい。いい加減、決めてくれよ、という心理が働く。ヒーローは期待に応えて、反対者を叩(たた)き、即断即決で物事を決めていく。
 私たちは民主主義の面倒くささに疲れ、システムを引き受けきれなくなっているのではないか。民主主義には時間と空間が必要だ。しかし、現在の社会には「溜(た)め」がなく、みんな忙しい。熟議や調整に参加する時間的余裕もなく、場所も見当たらない。「溜め」のない社会は、貧困を抱える人たちを苦しめるだけでなく、勝ち組をも追いつめる。いつ転落するかどうか分からないという恐怖とストレスを抱え込むからだ。そして、その不安は更なるヒーロー待望論に結び付いていく。
 この負のスパイラルを私たちは断ち切ることができるのか。民主主義のあり方が根源的に問われている。
    ◇
朝日新聞出版・1365円/ゆあさ・まこと 69年生まれ。社会活動家。2009〜12年、内閣府参与。

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