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修羅の宴 [著]楡周平

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2012年09月23日

[ジャンル]文芸 経済

表紙画像

■人生と経済の盛衰を重ねる

 これは、第一次オイルショックさなかの1974年から、バブル景気崩壊までの約20年間を疾走する、重厚長大な経済小説である。
 いづみ銀行の取締役、滝本哲夫は業績の悪化した繊維商社、浪速物産の立て直しを頭取の鏑木修次郎に命じられ、社長として出向する。高卒入社の滝本は、銀行にもどっても頭取にはなれないことを自覚し、浪速物産を自分の牙城(がじょう)にする決心を固める。
 その結果、わずか2年で再建に成功した滝本は、浪速物産をわがものにしようと、さまざまな手段を弄(ろう)して業態を広げる。そのため、愛人の小料理屋の女将(おかみ)、下村桐子に因果を含めて、自社の労組幹部の内輪話を、報告させたりもする。不動産や、町金融まがいの仕事にも手を出し、着々と地盤を固めていく。その、えげつないほど強引なやり口が、生きいきとした大阪弁の会話で進められ、滞るところがない。
 バブル景気に乗って、地上げをてこにさらに大きなプロジェクトを計画中、滝本は思わぬ落とし穴にはまる。新たに、役員として迎えた真田の口車に乗り、多大の欠損を出してしまうのだ。このあたりのいきさつは、ある程度専門的な知識を必要とするが、著者はそれを分かりやすく会話で処理し、疾走感を失わない工夫をしている。
 若い女に取り込まれ、長年の愛人桐子と別れたあと、滝本の運勢もしだいに傾き始めて、ついに経営に破綻(はたん)をきたす。その上、目をかけた部下にも反旗をひるがえされ、取締役会で社長を解任されてしまう。さらに、自社株の買い占め、粉飾決算などが罪に問われ、懲役7年の判決を受ける。その、年老いた孤立無援の滝本に、手を差し伸べようとする桐子に、読者はいささかの救いを感じるだろう。
 この小説は、激動期を生きた滝本個人の栄枯に託して、日本経済そのものの盛衰を描いた、渾身(こんしん)の力作である。
    ◇
講談社・1890円/にれ・しゅうへい 57年生まれ。作家。著書に『虚空の冠』『羅針』など。

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