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高倉健インタヴューズ [文・構成]野地秩嘉

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2012年09月30日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■演技の核の「気」、解明に挑戦

 18年という長期にわたって行われた高倉健へのインタビュー集である本書で著者は「健さん」の徹底解剖に挑戦するが、その実像は新作映画「あなたへ」の霧に包まれた古城跡のように、全貌(ぜんぼう)が見え隠れする。
 自己に忠実で常に自然体の健さんと時間を共有した者の多くは個を取り戻したかのような幸福感を味わうのが本書でもわかる。そんな高倉健は演技の核に「気」という見えない力の存在を設定する。このことが気になる著者は「気」の正体の究明にかかる。
 「気」は絵画にあっても不可欠な表現力を有し、絵画が現実を模写することに意味のないように、映画には映画の現実が要求されるが、健さんの求めるリアリティーは違う。演じる人物の心情を共有することで内発する感情をそのまま映画表現に移植する。このことで虚構が現実と同一化するが、その力の源泉が「気」であるように思う。
 本書でも触れている「あなたへ」の大滝秀治の、聞き逃してしまいそうな素っ気ない「久しぶりにきれいな海を見た」というセリフを聞かされた健さんは大滝さんにしびれるようなリアリティーを感じ、消えかかっていた自らの俳優生命を延命させる機をつかんだ、と正直に告白する。このセリフの重みと真意はおそらく健さんにしかわからないだろう。健さんは大滝さんの演技に何を見たのか?
 過日、放映されたテレビドキュメントで健さんは「幸せになりたい」とポツンと語ったが、この言葉にも重いメッセージが込められていると感じた。優れた一流の表現者にしか吐けない言葉である。優れた表現者は孤独を友とし、仕事を通してしか幸せは得られないという宿命を背負っている。表現者が幸せを望むなら、自らの生き方を反映した自分らしくふるまえる作品に出会うしかないのかも知れない。そして健さんの幸せはファンの幸せでもある。
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プレジデント社・1680円/のじ・つねよし 57年生まれ。ノンフィクション作家。『キャンティ物語』など。

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