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中国と茶碗と日本と [著]彭丹

[評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)

[掲載]2012年09月30日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■陶磁の謎解き、スリリングに

 著者は着物を着て茶をたて、能を舞い、幸田露伴を読み、寺に出入りし、そして日本語で小説も書く日本学者だ。欧米人の日本学者には、伝統文化に身体ごと入り込んでゆく人々が多いが、アジアの日本学者では、ごく少数派である。
 本書は茶の湯の陶磁器を素材にしているが、専門家しか分からない類の専門書ではない。著者が茶の湯の体験のなかで驚き、感動し、謎に思ったそのひとつひとつを解明しようとしている。その目の付け所と解明の方法が、ただごとではない。
 日本の国宝になっている陶磁器は十四点あるが、そのなかの半数以上が中国製だという。茶の湯の茶碗(ちゃわん)は八点だが、そのうち五点は中国のものなのだ。そこで著者は謎を抱える。なぜ外国製のものが国宝になるのだろうか、と。ちなみに、現存する曜変天目茶碗三点はすべて日本にあり、中国では全く知られていない。
 中国では曜変(窯変〈ようへん〉)天目ができるとすぐに壊した。なぜなら窯変は不吉の象徴だからである。しかしそれを助け出した人がいた。著者は中国の古典文献で、八十歳の老人が密(ひそ)かに茶碗を持ち出した経緯を突き止める。そのようにして、茶碗は命からがら日本に渡って行くのだった。
 白と藍の祥瑞(しょんずい)は多くの日本人に愛され、今でもその写しはよく使われる。「祥瑞」という名は器の底にある「五良大甫呉祥瑞造」に由来し、この銘のあるものは中国の景徳鎮で焼かれたとされている。しかし著者はここでも謎を抱える。五良大甫とはいったい誰なのか? 日本、中国双方の文献を自由自在に読みこなしながら、その謎を解いて行く過程はスリリングだ。
 青磁や龍文についても書いているが、いずれも茶碗だけでなく、魅せられ、造り、使う人間たちの姿が、小説を読むように活(い)き活きと脳裏に浮かぶ。久々に才能ある書き手の登場である。
     ◇
小学館・1890円/ほう・たん 71年、中国生まれ。法政大学社会学部講師(日中比較文化・比較文学)。

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