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死体は見世物か 「人体の不思議展」をめぐって [著]末永恵子

[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)

[掲載]2012年10月07日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■死者と生者の関係 問い直す

 90年代から全国で開催され、話題となった「人体の不思議展」。近くて遠い人体の展示は、多くの観客を動員した。しかし、展示された人体は、特定の誰かの死体である。「その人」は人格を持ち、他者と関係してきた具体的存在だ。その死体が皮膚を剥ぎ取られ、本人の望むはずのないポーズで展示された。著者はこの展覧会に、死体への冒涜(ぼうとく)を読み取る。
 展示会のきっかけは、ドイツのハーゲンスが開発したプラスティネーション標本という死体長期保存技術にあった。日本の解剖学者はこの技術に注目し、日本での製作を熱望。その啓蒙(けいもう)活動として、展覧会を企画した。1995年、日本解剖学会は創立100周年記念行事として「人体の世界」展を開催。これはプラスティネーション標本を一般公開した世界最初の機会で、注目を集めた。
 展覧会の成功に目をつけたのは起業家たちだった。彼らは死体の商業展示をビジネスチャンスととらえ、「人体の不思議展」を開催。学者のみならず、行政やマスコミも後援し、全国を巡回した。
 そもそも展示された死体はどこから来たのか。当初はハーゲンス作製の標本が使用されたが、興行会社との金銭トラブルで関係は決裂。すると、主催者は入手先を中国に求めたが、ここで疑惑が浮上する。死体の出所が不透明なのだ。標本となった死体は誰なのか? 本人は生前、確かに献体の意思を示したのか?
 商品化された死体と、それを見世物的に消費する来場者。会場には慰霊碑・献花はなく、死体の尊厳への配慮は見られない。一方で、我々は博物館でのミイラ展示をあまり問題視しない。死体展示が許容されるボーダーラインはどこにあるのか。
 この境界を見定める作業は、必然的に死者と生者の関係の問い直しにつながる。本書は、極めて重要な哲学的問いを投げかけている。
    ◇
大月書店・1890円/すえなが・けいこ 65年生まれ。福島県立医科大学講師。『烏伝神道の基礎的研究』。

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