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「言語と貧困」書評 優勢言語とどう向き合うか

評者: 川端裕人 / 朝⽇新聞掲載:2012年10月07日
言語と貧困 負の連鎖の中で生きる世界の言語的マイノリティ 著者:松原 好次 出版社:明石書店 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784750336466
発売⽇:
サイズ: 22cm/265p

言語と貧困 負の連鎖の中で生きる世界の言語的マイノリティ [編著]松原好次・山本忠行

 少数派言語の話者は、貧困に陥りやすい。「たかが言葉で?」と思うなら、それは我々が比較的一枚岩の言語環境に恵まれているからだと、本書を読むと思い知らされる。
 19世紀、先住民の子を寄宿校に隔離し英語を強要したカナダや、母語を話した生徒に「罰札」をかけたウェールズの事例は、いずれも文化の喪失と貧困に帰結した。近年でも西アフリカでの西欧言語偏重が識字率など生活の向上を妨げたと報告される。シンガポールのような豊かな国ですら、英語での教育を是としつつ「落ちこぼれ」による社会格差が問題になっている。かといって単純な母語回帰が必ず奏功するわけでもない。
 グローバル化が進む世界で、実は我々の言語もマイノリティーだ。英語など優勢言語とどう対峙(たいじ)するかは長年の議論があり、今後より顕在化するだろう。さらにアイヌ語、琉球語など内なる少数派を思い起こすなら、本書で描かれる世界的ジレンマは、まさに我々自身のものである。
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明石書店・4410円