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青い鳥文庫ができるまで [著]岩貞るみこ

[評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学)

[掲載]2012年10月07日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■文字への愛が育む信頼感

 「おくれています。このままじゃ、本は出ませんよ。早く書いてください」。咽(のど)から出そうになるこのセリフ。ぐっとのみ込む。作家が必死に書いているのは製品ではなく作品。できないものはできない。
 編集者モモタは、売れっ子作家・綾小路さくらの担当。遅筆で有名。出版日程が刻々せまる。なだめ、すかし、はげまし、やっと原稿を取る。もらったら即レス(これは書き手にとって本当にうれしい)。
 これが本になって書店に並ぶまでのプロセスを小説仕立てで詳述。入稿、初校、再校、校了といった業界用語が飛び交う。校閲者、デザイナー、イラストレーター、流通、実に数多くの人が関わる。
 活字文化にネット言説と一線を画す未来があるとすれば、文字を心から愛する人々の手間ひまが育むこの信頼性しかない。作家、編集者、書店員、文字に関わるすべての人が今、読むべきリアルな書。若い人にとってはキッザニアにない職業の価値を知る実に有益なる一冊。
    ◇
講談社・1260円

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