書評・最新書評

ヘッジファンド 1・2 投資家たちの野望と興亡 [著]セバスチャン・マラビー

[評者]原真人(本社編集委員)

[掲載]2012年10月14日

[ジャンル]経済

表紙画像

■“ハゲタカ”の知られざる実態

 市場の大相場の陰でうごめくヘッジファンドはハゲタカに例えられ、死骸にたかる凶暴な脇役とみられてきた。だが近年、国家に真正面から挑んで勝利するファンドもあった。勝負どころで数兆円規模の資金を動かす彼らは、今や市場の主役と言ってもいい存在感を放っている。
 にもかかわらずその実態はあまり知られていない。本書はそのプレーヤーたちの興亡を記録した貴重なノンフィクションだ。80〜90年代に活躍した「タイガー」ファンドのジュリアン・ロバートソン、ノーベル経済学賞学者らを束ね金融工学を駆使した「LTCM」のジョン・メリウェザーら伝説のファンド創業者たちの個性的な姿が描かれる。
 とりわけ英ポンド危機やアジア通貨危機の仕掛け人として名高いジョージ・ソロスの素顔が詳述されている。無慈悲な投機家であり、国家の改革を助ける慈善家でもあった。その二面性を示すエピソードがいくつも紹介される。
 ソロスの通貨空売りには国家を正しい政策に導こうという意図もあった、と著者は見る。タイやロシアの政府との攻防ではそれがあだとなって、みすみす大もうけの機会を逸し、大損もした。
 危機のたびに国際的なヘッジファンド規制の強化が検討されている。だが本書のために150人以上をインタビューした著者がたどりついた結論は「規制で抑え込むのでなく、むしろ振興すべきだ」。
 なぜなら巨大銀行は危機時に税金で救われるが、ヘッジファンドは過去10年で約5千がつぶれながらも納税者による救済例はない。リスク管理能力も銀行よりすぐれている。市場にとってよほど有益な存在だというのだ。
 日本国債の暴落がありうるとすれば、引き金を引くのはヘッジファンドと言われる。これを「忌避すべき悪役」と見るか、「大いなる警告」と受け止めるか。私たちも本書で一度考えてみてもいい。
    ◇
三木俊哉訳、楽工社・1995円/Sebastian Mallaby ジャーナリスト。米国・外交問題評議会の上席研究員。

関連記事

ページトップへ戻る