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上海、かたつむりの家 [著]六六

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2012年10月21日

[ジャンル]文芸 社会

表紙画像

■人物も物語も狂気に暴走して

 家が欲しい——そんな夢を抱き、夫婦がむしゃらで頑張る日本のバブル時代の「家を買う物語」のドラマは、来日初期に幾つも見た。私有地を認めない中国でも、今まさに同じ題材が、特殊な国情を加味して、日々演じられている。
 著者六六は、現代中国を代表する社会派作家である。本作は〇七年十二月に中国で刊行され、〇九年にテレビドラマになって、北京で放送されるや否や大きな反響を巻き起こした。
 地方から上海に進学し、就職も果たした三十過ぎの女性・海萍(ハイピン)は、結婚して一人息子も生まれた。しかし彼らの十平米ほどの「かたつむりの家」では、息子と一緒に暮らすことが困難だ。実家に預けて、年二回しか会えない息子は、自分になつかず、寝ようとすれば必ず祖母と一緒。胸が痛む海萍は、「上海に帰ったら、すぐに家を買うわ! 私はこの子と一緒に暮らさなきゃならないの」と決心する。
 しかし物価、とりわけ不動産価格は、「狂乱ともいえる上昇ぶり」を見せていた。年収十余万元の若夫婦は、八十万元台の物件を買おうと、頭金(十六万元)集めに奔走し始める。両家の親の貯金はもちろん、妹の海藻(ハイザオ)の結婚費用まで計算に入れてしまう。追い詰められた旦那・蘇淳(スーチュン)が高利貸に手を出したり、自分の設計図を他社に売って、産業スパイの疑いをかけられたりするし、姉思いの妹・海藻もまた借金をきっかけに、市政府の実権者・宋思明(ソンスーミン)と危ない関係に。海萍自身に至っては副業のために会社を辞めざるをえない状況になった。
 結婚、出産、住宅問題をはじめ、官民の癒着、権力者の腐敗、貧富の差など、今日の中国を悩ませるあらゆる社会問題に触れながら、人物も物語も狂気に暴走していく。
 地雷が多すぎてどこで爆発するかわからない——宋思明のこの嘆きは、果たして作中の人物たちの衝撃的な行く末に限ったものなのだろうか。
    ◇
 青樹明子訳、プレジデント社・1995円/Liu Liu 中国安徽省出身、作家。現在は上海で暮らす。


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