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人と芸術とアンドロイド―私はなぜロボットを作るのか [著]石黒浩

[評者]荒俣宏(作家)

[掲載]2012年10月21日

[ジャンル]文芸 科学・生物

表紙画像

■分身から知る「自分らしさ」

 外出することが危険になった未来社会、本人に代わって外で働くロボットが「惨殺」されると、本人までもが死んでしまうという事件が起きるのは、映画「サロゲート」である。
 ところが今、自分そっくりのロボットを開発して、逆に「人間とは何か」を探究する研究者がいる。
 本書の著者である大阪大学大学院の石黒教授は、表情から動作まで自分と同じ行動を遠隔操作で行わせることができる「ジェミノイド」、つまり双子の自分を製作した。すると、映画のようなことが次々に発生したのだ。
 実験によれば、自分の分身をカフェに座らせ人目に触れさせると、本人が街を歩いても、「ロボットが街を歩いていたぞ」と噂(うわさ)されるようになる。
 まず分かったのは、より多く社会関係を結んだ方が「本人」と認められる事実だった。したがって本人は、先に認められた分身ロボットのほうから「自分らしさ」を学びはじめ、他人からも「先生、最近ジェミノイドに似てきましたね」と言われるようになる。
 衝撃的なのは、ジェミノイドから空気を抜いて操作停止状態にするときの体験だ。
 手がだらりと垂れ、口を開けて後ろにのけぞる姿を見て、ほとんどの人が機械であることを忘れて、「ジェミノイドが死んでいく」と嘆く。
 近未来に家庭で使用される人間型ロボットが、家族のように溶け込めるためには、心を通わせる表現力が必要となる証拠だ。
 その実現には、工業技術だけではなく、芸術の感性が不可欠であり、本書にはわれわれ読者に向けた実験もさりげなく紛れ込ませている。
 本書のカバーは、夕焼けの中にたたずむ可憐(かれん)な女性のシルエット写真なのだ。いかにも文学的で人間くさいと感じさせるが、もちろん写真のモデルは人造人間なのである!
    ◇
 日本評論社・1575円/いしぐろ・ひろし 大阪大学大学院教授(システム創成)。『ロボットとは何か』。

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