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マルコーニ大通りにおけるイスラム式離婚狂想曲 [著]アマーラ・ラクース

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2012年10月28日

[ジャンル]国際

表紙画像

■文化の壁打ち抜く軽妙な語り口

 イーサーとソフィアという男女二人の語り手を交互に登場させて、物語は進められていく。しかし、前者は偽名であり、後者はある種の通称名とでも言えよう。
 「テロとの戦い」が欧米社会での合言葉となる中で、ローマにもまた、テロリストが潜伏しているという情報があった。そんな情報を基に、「リトル・カイロ」と呼ばれる反テロ計画が立てられていた。
 計画を遂行するために、ネーティブのようにアラブ語を操ることだけでなく、宗教や風習、生活習慣、人々の付き合い方など、ムスリム社会について熟知し、完璧なアラブ人を装うことができるイタリア人スパイが求められていた。そこで白羽の矢が立ったのは、シチリア出身の青年というわけだ。イーサーになった彼は真っ先に、アラブ人の溜(た)まり場であるコール・センター「リトル・カイロ」に向かった。
 一方のソフィア(本当はサフィーヤという名だが)は、神の教えに縛られるような伝統的なイスラム女性の生き方から逃れようと、イタリアに住むエジプト人男性と見合い結婚をし、いつか美容師になって自立したいと夢見て、ローマに移り住んだ。そんな彼女がエジプトの実家に電話するため、やはり「リトル・カイロ」に出入りするのだった。
 イスラム文化を囲ったような重くて分厚い「壁」を、二人の主人公が——片やソフィアは内側の立場から、もう一方のイーサーは外からの目線で——軽快な語り口で、打ち抜いて見せる。
 ——イタリアには未来がない!……イタリア人たちは別の未来を求めてイタリアから去っていく! だってわたしたち移民は、まったく同じ理由でここに来たのよ!
 異文化、とりわけイスラムで禁忌とされる政治、宗教、性をめぐる衝突に耐える、移民のそんな痛々しげなセリフが、耳にこびりついて離れない。
    ◇
 栗原俊秀訳、未知谷・2625円/Amara Lakhous 70年、アルジェリア生まれ。作家。95年からローマ在住。

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