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微笑む人 [著]貫井徳郎

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2012年11月04日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■不可解な殺人動機と心の闇

 エリート銀行員の仁藤俊実は、妻子を水難事故に見せかけて殺害した容疑で、逮捕される。仁藤は、最終的に容疑を認め、その動機を「本が増えて家が手狭になったから」と主張する。通常ではありえない動機に、警察は真実を語らせようと追及するが、仁藤は頑固に供述を変えない。
 物語は、事件に興味を持った小説家が、勤務先の同僚や知り合いの女性、学生時代の友人らを歴訪し、仁藤の隠された人間像をあぶり出していく手法で、進められる。仁藤は、だれもが認める模範的な銀行員だが、なぜか過去にその身辺で何件か、不審な未解決事件が発生している。果たして彼は正義の味方なのか、それとも異常犯罪者なのか。 この小説には、いわゆるミステリー的な解決がない。人はだれも、不可解なものに無理やり理屈をつけ、納得しようとする。それが真実かどうかは、だれにも分からない。
 著者はむしろ、そうした人の心の闇に目を向けよ、と訴えかけているようだ。
    ◇
 実業之日本社・1575円


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