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「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー [著]高橋秀実

[評者]松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学)

[掲載]2012年11月11日

[ジャンル]社会

表紙画像

■実験重ねるラブリーなチーム

 プロ野球にしてもオリンピックにしても、勝負の世界は結果だけ見れば単純だが、そこに至る過程はなかなか複雑である。強い方が勝つといわれるが、その「強さ」って何だろう? 強ければ必ず勝てるのだろうか? 本書は「強ければ勝つ」(つまり弱ければ勝てない)という常識の世界に、鋭く切り込んでくる。
 開成高校といえば、東大への進学率の高さで知られる「超進学校」。ここの野球部は野球経験者が少なく、グラウンドでの練習は週1回3時間という悪条件! にもかかわらず、甲子園予選にあたる東東京大会でベスト16まで勝ち進んだ(2005年実績)。監督と選手たちは、「理屈っぽい」という開成校生の特長を生かし、相手の意表を突く作戦を考え、無駄のない(?)練習方法を編み出したのだ。バントや細かい守備の練習はしない。打席ではとにかく大振りして長打を狙う。打順も意外な並べ方で、1対0の接戦などではなく、15対0のコールド勝ちを目指す。実際にこの方法で勝ち進んだときは、チーム打率が4割5分だったらしい。
 資源(体力や練習量)がなくても創意工夫で勝ち進む、というアイデアはスポーツ以外の分野でも使えそうだ。そもそも日本は、町工場などで働く人々のたゆまぬ努力によって、高度な産業技術を発展させてきたのではなかったか。「条件が悪い」とあきらめずに知恵を絞れば、逆転ホームランが生まれるかもしれないのだ。
 本書には開成野球部を率いる青木監督の発言もたくさん収録されているが、グラウンドでやるのは「練習」ではなく「実験と研究」と言い放つ発想がおもしろい。罵声の数々(捕球がおかしいピッチャーに対し「普通の人間生活を送れ!」と叫ぶ)も、愛情あってこその叱咤(しった)激励。選手たちのキャラもほほえましく、思わず応援したくなるラブリーなチームなのだ。
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 新潮社・1365円/たかはし・ひでみね 61年生まれ。ノンフィクション作家。『ご先祖様はどちら様』で小林秀雄賞。

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