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かつての超大国アメリカ [著]トーマス・フリードマン、マイケル・マンデルバウム

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2012年11月11日

[ジャンル]経済

表紙画像

■リスク厭わぬ意志こそが希望

 ピュリツァー賞を3度受賞した著名ジャーナリストと国際関係論の泰斗が診断する今日の米国社会。
 それが本書の直接的なテーマだが、その先に照射されているのはより大きな、先進国全体の近未来といってよい。
 たとえば、かつては高価な弁護士集団に委託していた訴訟対策用の書類分析も、今では安価なソフトウエアで容易に代替できるようになった。エリートとて安泰ではない。安定志向の時代は終わった。
 シリコンバレーにある研究所のCEOは「毎日何度くらい重大な決定を下しますか?」と尋ねる日本からの訪問者に対して「決定を下さないのが目標です」と答えた。トップダウンの時代も終わった。
 問われるのはイノベーション能力だ。
 わずか8カ月で立派なコンベンションセンターを完成させてしまう中国と地下鉄のエスカレーターでさえ半年間も修理中になっている米国——巻頭のエピソードからも著者たちの危機感や苛立(いらだ)ちが伝わってくる。
 硬直した利害関係に囚(とら)われた共和党と民主党のどちらにも批判的だ。むしろ第三政党に期待しているほどである。
 また、党派対立を煽(あお)り、政治を劇場化するメディアにも手厳しい。米国の今のメディアが1787年の憲法制定会議を取材したら「われわれはおそらく、べつべつの植民地のままだっただろう」と皮肉る議員の言葉が印象的だ。
 しかし、自らを「失意の楽観主義者」と称する著者たちは、政治家やメディアの「俗言に惑わされない人々」——ボトムアップのイノベーションに挑む兵士、教師、発明家、市民社会の運動家、小規模ビジネスの起業家など——のリスクを厭(いと)わない強靱(きょうじん)な意志のなかに米国の希望を見いだす。
 4年後も米国はその希望を抱き続けているだろうか。
 私たちは日本の希望をどこに見いだすのだろうか。
    ◇
 伏見威蕃訳、日本経済新聞出版社・2520円/T. Friedman ジャーナリスト M. Mandelbaum 米の大学教授。

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