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満洲浪漫 長谷川濬が見た夢 [著]大島幹雄

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2012年11月11日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■『偉大なる王』の訳者の初評伝

 額(ひたい)に王の字の模様がある満州虎の生涯を描いた、亡命ロシアの作家バイコフの『偉大なる王』は、戦前わが国で大いに読まれた。翻訳して紹介したのは、長谷川濬である。
 父は佐渡中学で、のちの国家社会主義者・北一輝を教えた。長兄は三つの筆名を使い分け、『丹下左膳』他を書いた流行作家の海太郎、次兄は猫の絵で有名な画家のりん二郎(りんじろう)、弟が『シベリヤ物語』の作家・四郎である。濬は昭和七年に旧満州に渡り満州国外交部に勤めたのち、設立された満州映画協会に入る。理事長の甘粕正彦にひきたてられた。一方、劇作家・別役実氏の父、憲夫らと、文芸総合誌「満洲浪曼」を発行した。
 終戦直後、甘粕は自決し、その現場に居あわせた。戦後は神彰(じんあきら)と組み、ドン・コザック合唱団を招き、日本公演を成功させた。本書は残された百三十冊のノートを基にまとめられた初の評伝だが、バイコフ文学に魅せられた経緯がやや淡泊。濬の本質は『偉大なる王』に重なるはずだが。
    ◇
 藤原書店・2940円

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