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64 [著]横山秀夫

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2012年11月18日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■記者と警察、せめぎ合う迫力

 著者7年ぶりの長編は、期待を裏切らぬ渾身(こんしん)の力作だ。
 D県警警務部の広報官、三上義信警視は元捜査二課に所属する、辣腕(らつわん)の刑事だった。それが、人事抗争の余波で刑事畑をはずされ、広報官に回されたことで、内心鬱々(うつうつ)たるものがある。しかも一人娘、あゆみが家出して行方不明、という悩みを抱えている。
 こうした状況のもとで、三上はしたたかな記者クラブを相手に、交通事故を起こした妊婦の匿名問題や、警察庁長官の緊急視察問題を巡り、体を張って対峙(たいじ)する。長官視察には、14年前に発生した未解決事件、〈ロクヨン〉と符丁で呼ばれる少女誘拐事件が、関わっている。どうやら、本庁は地元警察官の花形ともいうべき、県警刑事部長のポストに、キャリアを送り込む算段らしい……。
 著者はデビュー以来、犯罪捜査を主体とする従来の警察小説に、斬新な視点を持ち込んできた。本書もまた、記者クラブと警察広報のせめぎ合いを、臨場感あふれる迫力で描き出し、あますところがない。加えて、キャリアと地元警察官の対立、刑事部と警務部のすさまじい軋轢(あつれき)など、さまざまなコンフリクトが同時進行で、絡み合う。
 物語は、終始三上の視点で進められ、読者は三上の内省と独白によって、小説世界を引きずり回される。ハードボイルドの観点からは、主人公の心理を書き込みすぎるきらいが、ないでもない。しかし、一人称を避けて三人称を採用したところに、あえて客観の世界に踏みとどまろうとする、著者の姿勢が明示されている。
 終盤の、新たな誘拐事件の追跡劇は、圧倒的なスピード感をもって展開され、息を継ぐいとまもない。やや強引な結末も、その熱気の余韻によって、十分なカタルシスとなる。著者雌伏の7年は、ワイン樽(たる)の底の澱(おり)までさらうような、烈々たる本書の仕事によって、十分に報われた。
    ◇
 文芸春秋・1995円/よこやま・ひでお 57年生まれ。作家。著書に『半落ち』『クライマーズ・ハイ』など。

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