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核の海の証言―ビキニ事件は終わらない [著]山下正寿

[評者]上丸洋一(本社編集委員)

[掲載]2012年11月18日

[ジャンル]社会

表紙画像

■高校生らと続けた被曝調査

 ビキニで被災したのは第五福竜丸だけではなかった。米国の水爆実験に遭って被曝(ひばく)した日本船の乗組員の多くが、若くして病に倒れ、補償も受けられないまま亡くなっていった。しかも、今日にいたるまで日本政府は、船員の健康状態の追跡調査ひとつ実施することなく、問題を放置してきた。
 こうした実態を明らかにしようと、高知県の高校教師だった著者は、1980年代半ばから、教え子らとともに活動を続けてきた。元船員らへの聞き取り調査によって、深刻な健康被害が次第に明らかになっていった。地道な調査活動が、先輩から後輩へと30年近く受け継がれ、今に続いている。
 そうした活動の成果が本書にまとめられた。そこで改めて問い返されるのは、日本政府の姿勢だ。
 54年3月に第五福竜丸が被災したあと、5月までの間に、米国は6回の水爆実験をビキニ海域で繰り返し、のべ約1千隻の日本船が被曝した。
 ところが、日本政府は、この海域で水揚げされたマグロの放射線検査を、その年の12月末で打ち切ってしまう。そして翌年1月、米国が日本に200万ドルの見舞金を払うことで両国政府が合意し、事件に幕が引かれた。米国は事件の法的責任を認めず、放射線の害は小さいと強調した。
 「いつの時代もしわ寄せが来るのは底辺にいる者、いつの時代も一緒や」
 被災した元漁船員の妻は、そう語る。
 福島の原発事故によって放射能の災いにまたも見舞われた私たちが、こうした歴史的事実や被災者の体験に向き合うことの意味は小さくない。
 同じくビキニの被災船のその後を描くドキュメンタリー映画「放射線を浴びた【X年後】」(伊東英朗監督)も各地で上映されている。高知と福島の高校生の交流も始まっている。
    ◇
 新日本出版社・1890円/やました・まさとし 45年生まれ。太平洋核被災支援センター事務局長。

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