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私とは何か―「個人」から「分人」へ [著]平野啓一郎

[評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学)

[掲載]2012年11月18日

[ジャンル]新書

表紙画像

■自分の中に自分はいない

 学生時代、京都に住んだ時、興味深いことに気づかされた。東京では道路に囲まれた領域が町名・番地だったのに、京都では道を挟んで両側に町がある。社会が人と人の相互作用の上に成り立っているならば、これはとても合理的なこと。タイルでなく、目地に意味がある。
 同じことは個人にもいえる。人は内部に実体があるのではなく、関係性の中にその都度、可変的なものとして現れる。そう考えたほうがよいのではないか。個人は、それ以上、分割できないもの(in—dividual)ではなく、無限に分割可能な、動的なもの(dividual)としてある。
 言葉の使徒として、芥川賞作家はこれに「分人」と名づけた。なかなかすごい発明である。自分の中に自分を探すな。自分は他人とのあいだにある。著者の小説『ドーン』のやさしい攻略本としても読める。平野啓一郎は小難しい人ではなく、実はユーザー・フレンドリーな分人だったのだ。
    ◇
 講談社現代新書・777円

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