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天平グレート・ジャーニー 遣唐使・平群広成の数奇な冒険 [著]上野誠

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2012年11月25日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■崑崙へ漂着 信じることで活路

 遣唐使といえば、山上憶良、吉備真備、最澄、空海、さらには遣唐使船で渡来した鑑真など、日本史上の人材の宝庫だ。いずれも大陸からの知識を活用し大きな功績をあげた。当時の未熟な技術ゆえ航海は命がけで、彼らは無事に渡海した幸運な成功者でもあった。
 本作は2世紀半に及ぶ遣唐使の歴史で、最も過酷な旅路を経て帰還した平群広成の冒険譚(たん)。天平5年(733年)の遣唐使に参加し、玄宗皇帝に謁見(えっけん)は果たしたものの、帰り航海中の嵐で崑崙(こんろん)(現在のベトナム)に漂着。いったん、長安に戻ってから、朝鮮半島に向かい渤海(ぼっかい)経由で、天平11年、帰国した。崑崙に漂着した115人中、生還者は4人だけだった。
 冒険物語として、派手な立ち回りがあるわけではない。広成は基本的に相手を信じ、異文化を理解しようとし、分からなくとも身を委ねることで活路を見いだす。長安到着までは唐の役人、崑崙ではどこか裏がありそうな商人の安一族、長安から渤海への脱出では、科挙に合格し皇帝に仕えていた阿倍仲麻呂。裏切りにあっても不思議でない中、外来文化を受け入れた天平の世のおおらかさを身をもって表現しているかのようだ。
 期せずして唐・崑崙・渤海を知る身となった広成は、帰国後「北方の熊と北方の虎があい争いましても、東方のどぶ鼠(ねずみ)は、どちらに味方してもよくない」と奏じる。唐における日本の序列は、朝貢国中最下位で、主戦論を押し通せる強国ではありえない。朝鮮半島の覇権争いに関与すべきでないという意見だ。
 歴史を材に取った小説は、必ず「今」と照らし合わせて読まれる。昨今、際だって前景化している東アジアにおける日本の立ち位置の問題に引きつけることもできよう。井の中の蛙(かわず)が、世界を見て大局観を得る物語として、つまり、「日本人よ、世界に出よ、自らを知れ!」と背を押されているようにも思える。
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 講談社・2625円/うえの・まこと 60年生まれ。奈良大学教授(国文学)。『万葉びとの奈良』など。

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