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MAKERS―21世紀の産業革命が始まる [著]クリス・アンダーソン

[評者]原真人(本社編集委員)

[掲載]2012年11月25日

[ジャンル]経済 IT・コンピューター

表紙画像

■誰でも製造業を起こせる時代に

 インターネットがもたらす経済の構造変化を解き明かしたベストセラー『ロングテール』『フリー』に続き、著者が今回、世に問うキーワードは「メイカームーブメント」つまり、ものづくり革命だ。
 ネット産業の勃興は、蒸気機関や自動車を生んだ第1次、第2次産業革命に次ぐ、時代の節目と言われる。だが著者は、それはまだ画面上の世界の小さな変化にすぎず、現実社会を大きく変える第3次産業革命はむしろこれから起きるのだ、と予測する。
 その原動力が、誰でも製造業を起こせる技術の進化だ。大企業のように資金や工場がなく熟練工でないとしても、いまやアイデアや才覚ひとつで製造業を起こせる。
 たとえば、自宅のパソコンでオリジナル食器を立体デザインする。ファイルを3Dプリンターに送れば、自動的に樹脂が塗り重ねられ、設計図通りの食器が完成する。3Dプリンターとはいわば紙にインクを吹きつけて印刷する家庭用プリンターの立体版だ。素材をチタンやガラス、金属などで作ることもできる。
 技術的にはそこまで来た。となれば、本書が指摘するように、ものづくりが資本集約型の大量生産だけでなく、個人や小企業によるニッチ産業モデルに回帰する可能性は十分ある。目の肥えた消費者だけのために、新しいアイデアや技術を盛り込んだ商品を作る企業が数千、数万の単位で続々と生まれても、けっしておかしくないだろう。
 そこまでは著者の見立てに賛成だが、この潮流が新興国に雇用を奪われている先進国の製造業を復活させ、雇用を後押しする、との見解はやや楽観的すぎるのではないか。
 労賃の安い中国から製造業を取り戻したとしても、熟練工いらずのデジタル工作機械が生むメイカーズがどれほどの雇用を生むだろう。ネット革命が必ずしも雇用増をもたらしていないように、製造業革命も、そこが気がかりだ。
    ◇
 関美和訳、NHK出版・1995円/Chris Anderson 「ワイアード」US版編集長。『ロングテール』ほか。

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