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津田大介「ウェブで政治を動かす!」書評 新しい民主主義を作るために

評者: いとうせいこう / 朝⽇新聞掲載:2012年12月02日
ウェブで政治を動かす! (朝日新書) 著者:津田 大介 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784022734778
発売⽇:
サイズ: 18cm/296p

ウェブで政治を動かす! [著]津田大介

 タイトルからして、この時期にはおおいに刺激的だ。
 しかし、“すわ、ウェブ党の立ち上げか”と敏感になった人は、主にマスメディアによる「政局報道」に心奪われている。いわゆる永田町の論理に洗脳されていると言ってよい。ここ数年ほころびが完全に露呈していたその論理は、今回の選挙で一気にまた日本を支配し始めている。
 そんな中で、本書はむしろ特定の政治家だけが動かす「政局」に対して、国民がインターネットを通じて「政策」を知り、討議に参加し、常に政治を監視するような社会の到来を後押ししようとする。
 豊富な実例通り、すでに東京都の青少年健全育成条例の一部改正案が、“ツイッターで情報が拡散”したことなどで論議を呼び、いったん否決。著作権保護期間の延長に関しても、ウェブ上での議論の可視化が問題を先送りにした。我々はそうした「政策」への参加をもう始めているのだ。
 逆に「政策」を発信する側の政治家、政府も徐々に方針をネットで開陳するようになっている。事業仕分けをネットで生配信し、視聴者が刻々と意見を打ち込む形などが変化を示しているだろう。
 著者はそこで、「ネット選挙」を実現すべきだと説く。ウェブ投票ということではなく、選挙期間中に候補者が自分の考えを次々に発信し、有権者と討議を重ねる。その運動にほぼ金はかからない。
 現行の公職選挙法ではウェブサイトの更新さえ許されていない。これは決定的に古い。選挙期間中に現れた問題を候補者がどう考えるかにこそ、彼らの真価が出るのだから。何よりも、我々国民はネットから政治に刻々と圧力をかけることが出来るのである。
 むろん「ネット選挙」は入り口に過ぎない。それは永田町の論理に耳を傾けず、新しい民主主義を作るためにある。まず今回の選挙でネット世代が現実の投票をしなくては、それは始まらない。
    ◇
 朝日新書・861円/つだ・だいすけ 73年生まれ。ジャーナリスト、メディア・アクティビスト。『動員の革命』など。