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東日本大震災と地域産業復興―I人びとの「現場」から  II立ち上がる「まち」の現場から [著]関満博

[評者]山形浩生(評論家)

[掲載]2012年12月09日

[ジャンル]経済 社会

表紙画像

■企業取材で見通す、日本全体の突破口

 東北震災以来、もう2年近く。ニュースだけ見ていると、初動の遅れ、空疎な文明論を並べて増税の口実にされただけの復興会議、さらに最近判明した復興予算の流用など、特に国レベルの対応のまずさばかりが伝わってくる。また一部では原発事故への過度の不安から、瓦礫(がれき)受け入れなど復興への協力すら拒否しようとする人々がいるのは悲しいことだ。
 だがもちろん地元の企業や人々は着実に復興を進めている。本書は震災の直後、東北各地の特に製造業を中心とした産業復興の様子を、中小企業へのたんねんな取材調査で描き出す。それも「がんばりました」の一時的な美談集ではない。多種多様な企業の事業復活が、震災から1年半のそれぞれの時点で東北全体の産業構造変化の中で持つ意味を克明に記述する本書は、被災地全体の復興の歩みを見事に描き出している。
 これが可能だったのは、著者が震災以前から20年以上にわたり、東北の中小企業群を調査分析してきたからだ。関満博は、日本の大田区をはじめ中国、アジア、その他世界中の中小企業の集積を実際に足を運んで研究し、現場のダイナミズムに常に注目してきた。個別の企業が地域の中でネットワークを形成し、多様なニーズや急な変化にもその組み合わせで対応できることが、日本やアジアの新興工業地域の活力源だ、というのが彼の定番の主張だ。
 そして今回の本でも、その視点は健在だ。震災の被害は、地域の産業ネットワークを破壊してしまった。それは東北内だけの話ではない。震災直後、携帯電話や車など意外なものの生産が世界的にストップして、評者を含め多くの人は驚かされた。そうした企業のつながりが復興の突破口にもなった。その一方で、被災地域が以前から抱えていた過疎、高齢化、交通条件の悪さ、アジア移転といった課題への取り組みも、震災は加速させることになった。それを克服しようとする一次産業まで含めた産業の高度化、重層化、高付加価値化への懸命な取り組み事例は、それ自体が感動的だ。
 だが本書の主張はさらに広がる。日本全体も過疎(人口減)と高齢化を迎えている。だから被災地復興の試みは、近い将来の日本産業全体にまでヒントを与える、と。個別事例をとばしてこうしたまとめだけほしい人は、同著者の『地域を豊かにする働き方』(ちくまプリマー新書)を読んでほしい。被災地の課題と取り組みは、実は日本全体の課題でもあるのだ。本書はそれを理解させてくれる。そしてそれこそまさに、震災の教訓を風化させず、自分たち自身の問題としてとらえなおすための不可欠の視点だ。
    ◇
 新評論・1=2940円、2=3990円/せき・みつひろ 48年生まれ。明星大学経済学部教授。著書に『現場主義の人材育成法』『ニッポンのモノづくり学』『「農」と「食」の農商工連携』。サントリー学芸賞(97年)、大平正芳記念賞特別賞(98年)。

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