書評・最新書評

シビリアンの戦争 デモクラシーが攻撃的になるとき [著]三浦瑠麗

[評者]山形浩生(評論家)

[掲載]2012年12月16日

[ジャンル]社会

表紙画像

■文民統制に恐ろしい問いかけ

 本書は、ぼくたちが慣れ親しんでいる軍や戦争に関する基本的な考え方に大きな疑問をつきつける。従来の発想では、軍人は戦争大好きだとされる。だから平和を愛する文民が彼らの活動を常に監視し、抑えなくてはならない。これが文民統制(シビリアンコントロール)の発想だ。
 でも近年の多くの戦争の実態はちがう、と著者は指摘する。軍人たちは、戦闘で真っ先に死傷する立場だ。だから勝算のない無意味な戦争にはきわめて慎重だ。むしろ文民たちのほうが、独裁政権打倒とか対テロとか、その時の勝手な思い込みと勢いで、軍人たちを(民主主義のおかげで!)戦争に引きずり込んでいる、と。文民統制というのは本当に有効なのか?
 恐ろしいことながら、これが正鵠(せいこく)を射ていることは否定できない。今回の選挙でも、国防安保面で勇ましい発言を繰り返す政治家が多い。どれもまさに本書の指摘する、当事者意識のない文民たちの安易な好戦論だ。むろん軍人が常に慎重ではない。いったん戦争が始まれば、軍は兵員の消耗を抑えたいが故に、逆に一発即決を狙って戦線と軍備の拡大を求める。文民による統制の発想も重要だ。だがどこまで? そしてだれが文民を統制するのか?
 本書は、ここでこれまた恐ろしい提言を持ち出す。戦争抑止には、国民の相当数がその当事者として軍隊的な体験を積むべきだ、と。それがあればこそ、人々は実感を持って平和を主張できる!
 右傾化、軍事化を憂慮する人々の最も嫌う徴兵制に近い体制こそが、実は最も平和維持に有効ではという本書の主張に拒絶反応を示す人も多いはず。だが、いかにして人々に平和・戦争の当事者としての意識を持たせるのか? 文民は平和好きという思い込みが揺らいだとき、ぼくたちは本書のつきつけるこの問題に対する答えを、実は持ち合わせていないのではないか。
    ◇
 岩波書店・3360円/みうら・るり 80年生まれ。東京大学政策ビジョン研究センター特任研究員(安全保障研究)

関連記事

ページトップへ戻る