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世界しあわせ紀行 [著]エリック・ワイナー

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2012年12月16日

[ジャンル]人文

表紙画像

■不幸なおばあちゃんの言葉には

 人間なら誰しも幸せになりたいと願う。ゆえに生涯たゆまぬ努力をし続けるだろう。しかしそんな努力は、国の制度や社会環境などによって、無駄になってしまうこともあるではないか。世界一幸せな国を求めて、「ニューヨーク・タイムズ」の元記者が旅に出た。
 「世界幸福データベース」を運営する幸福学研究の権威、フェーンホーヴェン教授を訪ねるべく、最初に向かったのはオランダだった。「マリファナは合法であり、売春も禁じられていない」この国で暮らす人々ならさぞかし幸せなのだろうと期待して。ところが、「あなたは現在どのくらい幸福に感じていますか」と質問する教授の研究を見れば、「幸福だとされている国ほど自殺率が高い」という不可解な結果が出ている。
 幸福度の高い国を巡りながら、「幸福について考えているうちに気分が落ち込んできた」という著者は次の旅行先を、不幸な国とされるモルドバにした。そこでソ連の解体とともに、不幸に陥ったルーバおばあちゃんに出会う。
 「フィヴティ・フィヴティ(五分五分)」——ルーバが知っている二つの英語のうちの一つ。彼女の口から出たこの語には、なぜか幸せを考えさせる深い哲学が秘められているように感じてしまう。
 幸せは実際にお金で買えると、別の研究でわかった。ただし、年間約1万5千ドル(約120万円)が限度で、それ以上に収入が上がっても幸福度が高くなるとは限らない。
 「最後の木が切られ/最後の川が干上がって/最後の魚が捕まったとき/そのときはじめて、人はお金が食べられないことを知る」——ブータンの田舎の道路脇に立つ、意味深い手書きの看板だ。
 ユートピアは実在するのか、本を開く前から持っていたこの疑問は、ユーモラスな文章を追って世界10カ国の旅を楽しんでいるうちに、どうでも良くなったのだ。
    ◇
 関根光宏訳、早川書房・2415円/Eric Weiner 米・ジャーナリスト。本書は08年に米で刊行され、ベストセラーに。

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