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地球温暖化との闘い [著]ジェイムズ・ハンセン/10万年の未来地球史 [著]カート・ステージャ

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2013年01月06日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■原発事故より深刻か、適応も考えるべきか

 地球温暖化についての話題が消えた。直接原因は大地震、津波、原発事故だろう。我々が一時に持ち得る関心は有限なのである。また、原発がほとんど停止している今、火力発電に寛容にならざるを得ないことも関係しているかもしれない。ただ、いつまでも無関心を貫くわけにもいくまい。同じ版元から立て続けに出版された対照的な2冊がヒントをくれる。
 『地球温暖化との闘い』は温暖化の危険を説いた「言い出しっぺ」の一人、ジェイムズ・ハンセンの著作。活動家でもある彼は「気候の安定化や環境保護のための行動を何もとらない」政府の態度を舌鋒(ぜっぽう)鋭く批判する。事態は後戻りできない「転換点」を迎えており、我々はありとあらゆる策で二酸化炭素排出を抑えなければならない。彼のシナリオでは、海水面が最悪70メートル超上昇することもありうるという。とにかく化石燃料を使うのをやめること。そのためには原子力発電、それも未完の技術、高速増殖炉を使えという。彼の観点からは原発事故よりも気候変動の方が大問題なのだ。
 『10万年の未来地球史』の著者は、研究者とジャーナリストを兼ねた立ち位置のカート・ステージャ。我々が既に地球環境に与えてしまった(与えつつある)影響は甚大で「総排出量を控えめの数値に抑えたとしても、5万年後に来る次の氷河期はすっ飛ばされることになる」と述べる。極地や高山の生態系が壊滅するのはもちろん、二酸化炭素が海に溶け酸性化することで、石灰質の「体」を持つカニ、エビなど甲殻類、アワビなど貝類、更には美しいサンゴ礁も滅びるかもしれない。未来ビジョンは厳しい。ただ、ステージャは全く違う提言をする。「慌てない、そしてあきらめない!」と。
 変動は一個人の生涯の中ではゆっくりだ。放出された二酸化炭素が吸収され、ふたたび元に戻るまで、我々の子孫は何万年何十万年の長期にわたって、温暖化した環境と、また冷えていく環境を経験する。そして、温暖化した世界に適応した子孫は、我々自身がそうであるように自らの時代と環境を愛し寒冷化を恐れるだろう、と。温暖化は局所的には便益をもたらし、十分適応可能な範囲であろうというのが前提だ。
 ハンセンの緩和策とステージャの適応策の間のどこに、着地点を見いだせるだろう。難問だ。ただ確実に言えることもある。日本では、二酸化炭素の排出削減など緩和策ばかり表だって議論されてきた。実はこれだけでは空疎。例えば、豪雨による洪水・土砂災害が頻発する近未来が想定される時、どう適応するか? このような適応策を実際の施策で、排出削減と同等に扱うことが必要ではないか。
    ◇
 『地球温暖化との闘い』枝廣淳子監訳、中小路佳代子訳、日経BP社・2310円/James Hansen コロンビア大学客員教授▽『10万年の未来地球史』岸由二監修・解説、小宮繁訳、日経BP社・2310円/Curt Stager 生態学者、サイエンスライター。

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