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「司法よ! おまえにも罪がある」書評 人事交流が投げかける影

評者: 上丸洋一 / 朝⽇新聞掲載:2013年01月20日
司法よ!おまえにも罪がある 原発訴訟と官僚裁判官 著者:新藤 宗幸 出版社:講談社 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784062180627
発売⽇:
サイズ: 19cm/222p

司法よ! おまえにも罪がある [著]新藤宗幸

 原発の安全性をめぐっては1973年に始まった伊方原発(愛媛県)訴訟以来、建設中止などを求める住民らによって、数々の裁判が提起されてきた。しかし、住民側の勝訴は2例しかない。ほとんどの訴訟で裁判所は、行政の判断を支持してきた。
 なぜ司法は原発をチェックできなかったのか。本書は、行政側勝訴の判決に共通する論理構造を解き明かし、司法の責任を追及する。
 著者が着目した問題点の一つに、裁判所と法務省の人事交流がある。これによって法務官僚(訟務検事)に任用された裁判官が、原発訴訟で国側代理人を務めて「原発は安全だ」と主張する。そうした人物が元の裁判官に戻った後、原発の安全性を公正、公平に判断できるのか。人事交流が原発訴訟に「深刻な影を投げかけてきた」と著者は実名をあげて指摘する。
 裁判所は誰のために存在するのか。原発事故は根本的な問いを突きつけた。裁判所は本書にどう応えるだろうか。
    ◇
 講談社・1470円