書評・最新書評

昭和天皇のゴルフ [著]田代靖尚

[評者]荒俣宏(作家)

[掲載]2013年01月27日

[ジャンル]社会

表紙画像

■意外な切り口の昭和史再検証

 最近は明治大正の新聞や雑誌がデジタル化され、些末(さまつ)な出来事も自由に掘り返すことが可能になった。こうなると、世の定説の正確度をチェックしてやろうかという気にもなるが、その手本みたいな本が出た。テーマは昭和天皇を主役にした日本ゴルフ史。これがまた、冒頭から定説を根底から覆していくから、怖い。定説って、いったい何?
 たとえば権威あるゴルフ史書が一様に「大正6年の春、赤坂離宮で観桜会が催されたとき、皇太子殿下にゴルフをおすすめしようという話が出た」と述べる件からして、当時の新聞記事を調べ直せば大きな誤りがいくつもみつかる。まず、その年に観桜会が行われたのは新宿御苑で、当日に皇太子は出席していなかった可能性が高く、その翌日の後片付けのときに実行委員の一人と友人とのあいだで出た話だったらしいのだ。
 そこで本書は自前の調査をベースに昭和天皇のゴルフ史を一から構築するのだが、これがまったく思いがけない「昭和史再検証の切り口」であることが分かってくる。ハイライトは、はからずも実現した日英皇太子による世紀のゴルフ対決である。当時の世界情勢を背負って来日した英皇太子を迎え撃った裕仁殿下のゴルフ技術を、写真や記録から「飛距離は出ないがスコアは安定する」堅実ゴルフと分析してみせる。結局、腕力はあるがフォームを崩しやすく波が激しい英皇太子が1アップで勝利するけれども、じつは知られざる第2戦が予定されていた。
 ほかに幻の天覧ゴルフ、満州事変が原因で天皇がゴルフをやめたという説などが検証されるが、では、本書は完璧なのかと問われると困る。じつは田代氏も、以前に書いた日英ゴルフ交流に関し「記述に誤りがある」と厳しく指摘されたからだ。そのシビアな批評家は昭和天皇であった! ご本人直々の校閲では、致し方ないなぁ。
    ◇
 主婦の友社・1680円/たしろ・やすひさ 44年生まれ。文筆業。『知的シングルになるためのゴルフ語源辞典』

関連記事

ページトップへ戻る