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元素をめぐる美と驚き―周期表に秘められた物語 [著]ヒュー・オールダシー=ウィリアムズ

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2013年02月03日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■無表情に見える記号の裏に

 学生時代の私にとって、化学は苦手な教科だった。授業ではいつも、元素記号をぼうっと眺め、何のイメージも湧かないまま、先生の言葉を聞き流していた。今となって唯一記憶に残っている分子式は、水を表す「H2O」だけだ。
 かくして敬遠してきた元素。これをめぐる美と驚きがあるというではないか。しかも自称元素コレクターの著者は、硬貨をぶつ切りして銅やニッケルを取り出したり、自らの尿を用いてリンを取り出そうとしたりする「ツワモノ」である。好奇心に駆られるようにして手に取ったこの本、すぐさま読みふけった。
 元素周期表は1860年代末にロシアの化学者メンデレーエフによって考案された。当時は空欄が目立っていたが、それを埋めるかのようにガリウムやスカンジウムなどの新元素が次々と発見され、理論的にも立証されつつあった。
 しかし、1894年にアルゴンという不活性ガスが発見されて周期表に「元素の族一つがまるごと抜けていた」ことがわかった。これはのちに、ノーベル化学賞をメンデレーエフに授与しない理由にもなったという。
 元素そのものも物語の宝庫だ。一見無表情に見える名前だが、ウランは天王星(ウラノス)、プルトニウムは冥王星(プルート)など、原子力関連の元素は惑星などに由来しているという。チタン、ニオブなどは古代の神話に由来する。「豊かな色を生み出す化学的性質」を持つバナジウムは、北欧に伝わる愛と美と豊穣(ほうじょう)の女神バナディースにちなんで名づけられた。
 一方、元素にちなんで名づけられた国もある。アルゼンチンは銀を意味するラテン語「argentum」からだ。銀産出のおかげで、かつて「世界で10番めに豊かな国だったことがある」とか。
 元素でできた世界に生きている、そんな私たち人間も元素からなっているのだ。
    ◇
 安部恵子ほか訳、早川書房・2940円/Hugh Aldersey−Williams 59年生まれ。英国のジャーナリスト。



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