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セッシュウ!―世界を魅了した日本人スター・早川雪洲 [著]中川織江

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2013年02月10日

[ジャンル]人文

表紙画像

■内助の功が支えた映画人生

 先日亡くなられた大島渚監督が、この人を映画化すべく脚本を書いている。わが国初の国際スター・早川雪洲(せっしゅう)。「花はサクラ、男はセッシュー」とアメリカでもてはやされた。ハンフリー・ボガートが共演を望んだ。少年時代のあこがれの男優だったのである。
 私たちには「戦場にかける橋」の捕虜収容所長・斉藤大佐の雪洲がなじみ深いだろう。軍人らしい押し出しと、立派な容貌(ようぼう)。寡黙な性格。
 本人は脚本を読んだ時、気乗りせず断った、という。いい映画になる、と出演を強く勧めたのは妻の鶴子である。映画は大ヒットし、名画と評された。
 本書は八十七年の彼の生涯を克明に追った労作だが、主人公は実は鶴子夫人である。この視点がいい。類いまれなる大スターを作りあげた鶴子の、内助の功を明白にした。
 壮士芝居の川上音二郎の姪(めい)である。九歳の時、貞奴(さだやっこ)らと海外公演に参加する。役者の経験は全く無い。ところが金を持ち逃げされ一座は困窮、鶴子は養女に出され米国に残る。養父が亡くなると女優になり自活、日本人初のハリウッド女優である。新米の雪洲に演技を教え、上手な英語で売り込む。二人は結婚する。
 雪洲が脚光をあびると、在米邦人から非難された。折からの排日運動をあおるような日本人らしからぬふるまい、と芝居の役所(やくどころ)を咎(とが)められた。
 映画草創期らしい騒動だが、国賊扱いに鶴子は「今にわかるから」と慰め励ました。
 やがて夫婦は戦争によって国を異(こと)にする。雪洲はフランスに、鶴子は故国日本に。二人に子は無い。鶴子は夫が他の女に生ませた三人の子を引き取り育てる。夫から送金は絶え、売り食いした。芋の買い出しもした。人生はこんなもの、と屈託がない。十三年ぶりに夫と再会する場面は、映画のようである。ちなみに大島の脚本では、鶴子が青木ツルの名で大活躍する。雪洲役は坂本龍一の予定だった。
    ◇
  講談社・2625円/なかがわ・おりえ 教育美術振興会評議員。『粘土遊びの心理学』など。

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