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ジャスト・キッズ [著]パティ・スミス

[評者]松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学)

[掲載]2013年02月17日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■輝かしくあやうい、2人の70年代

 1970年代後半から80年代にかけて活躍したロック歌手で詩人、アーティストのパティ・スミスの自伝。自伝といっても、中心テーマは写真家として知られるロバート・メイプルソープとの出会いと、成功にいたるまでの2人の遍歴、そして変わることのなかった2人の絆の強さである。メイプルソープの死で話は終わっており、その後彼女の私生活に起こった変化(夫との死別など)は語られていない。パティ・スミスについては97年にニック・ジョンストンによる評伝が出ている(邦訳は2000年、筑摩書房から)が、この評伝の執筆に彼女は一切協力しなかったという。当時は自分の作品について「シリアスな本を出すのは、まだ早すぎる」と感じていたらしいが、十数年を経て自ら筆を執ったのは、ついに機が熟したからなのか。
 彼女がランボーに影響を受けたことや、故郷で工場労働者であったことは周知の事実だ。だがこの本では、最初に手に入れたランボーの詩集が実は万引きしたものだったことや、ニューヨークに出てくるときのバス代が足りなくて、電話ボックスに置き忘れられていた財布から金を抜き取ったことなどが赤裸々に語られている。ナンパされて困っているときにたまたまメイプルソープが通りかかったので助けを求め、親しくなったというエピソードもおもしろい。
 金もコネもない20歳の2人は「ジャスト・キッズ」(まだ子ども)に過ぎなかったが、ハングリーに表現を続けていくうちに業界の扉が少しずつ開いていく。綺羅星(きらほし)のようなビッグネームとの出会いもある。若い2人の歩みは輝かしく、そして、あやうい。
 まるで小説のような自伝。メイプルソープとの愛を美しく歌い上げるパティの自己演出は徹底している。つっこみどころもあるけれど、「これが私の物語」と啖呵(たんか)を切る彼女の強さには脱帽せざるを得ない。
    ◇
 にむらじゅんこ・小林薫訳、河出書房新社・2499円/Patti Smith 46年、米シカゴ生まれ。



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