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「談志が死んだ」書評 恐怖の臨場ノンフィクション

評者: 田中優子 / 朝⽇新聞掲載:2013年02月17日
談志が死んだ 著者:立川 談四楼 出版社:新潮社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784104247042
発売⽇: 2012/12/01
サイズ: 20cm/220p

談志が死んだ [著]立川談四楼

 いや、面白い。いい本だ。エッセイとも小説とも思えるこの作品には著者の才能が十全に発揮され、亡くなったはずの談志が、読む者の肌にまとわりついて、払っても払っても消えない。読み終わったときに、読む者の中に談志が生き返ってしまう。
 立川談志は二〇一一年十一月二十一日に亡くなった。本書はその次の日、二十二日から始まる。著者はその日から死の噂(うわさ)を追いかけ、そして噂に追いかけられる。死去の情報は徹底的に隠されたので、もっとも近い弟子も知らなかったのである。そのあいだに、最後に会った談志の姿や、テレビ番組で著者が立川流の発祥について語る様子が書かれてゆくのだが、このテレビ番組の再現は、番組じたいより面白いのではないだろうか。ちなみに立川流は、著者である談四楼が真打ち試験に落ちたことで始まった。
 談志の思い出を書いた賞賛(しょうさん)に満ちたエッセイだと思って読みはじめたが、まるで違う。突然怒りだす談志に著者の総身が震えると、こちらも震える。怒った理由を探す過程は、こちらも謎でいっぱいになり、まるでミステリーだ。落ち込む著者を支える贔屓(ひいき)も、際だったキャラクターである。談志のケチも想像を絶する。いつの間にか、小説に引き込まれるように読んでいる。だが、フィクションではない。恐怖の臨場ノンフィクションである。
 しかし決して暴露本ではない。最後には、著者が談志を「親父(おやじ)だ」と思っていることに気づかされるからだ。ともに生きてきた人間について語る言葉に善悪の判断は要らない。愛も憎も要らない。その人の一挙手一投足に、自分の心や身体が鋭く応えるのであるから、それをいくらか距離をもって書くことこそ、その人を書くことなのだ。
 ちなみに立川流一門は談志をはじめとしてよく本を書くので「本書く派」と言われている。
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 新潮社・1575円/たてかわ・だんしろう 51年生まれ。落語家。『落語家のやけ酒、祝い酒』など。

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