書評・最新書評

「死ぬのが怖い」とはどういうことか [著]前野隆司

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2013年02月24日

[ジャンル]人文

表紙画像

■あるのは「今」だけ、あとは幻想

 僕は怖いけれど死ぬのが怖くないという人もいる。どうしたら怖くないかを哲学から脳科学まで学問を総動員した著者が理詰めで考えた結果を本書で展開する。この著者は宗教も死後生の存在も前世も輪廻(りんね)も科学的証明がない以上信じないという立場で、かなりのページを割いて死後の世界の否定に費やす。
 本書の目的は著者の「生きているのが楽しくて仕方ない」ということを人に伝えるためだそうだ。死を恐れないためには生は幻想であることを認識する必要がある。生も死も大差ない、本来、心もない、もともと何もない、人はすでに死んでいるのも同然。生きていること自体、勘違いで、人間は知情意のクオリアという幻想を持った生物で、人間には過去も未来もない。あるのは「今」だけ。あとは全て幻想。だから今しかイキイキと生きられない、と。
 死は想像上の産物で、死の瞬間には主観的な今も死もない。死が怖いのは自分のクオリアが肉体を失うことを恐れるからだと。本来は自己と他者の区別はない(ちょっと唯識的かも)。このように利己と利他を超越した人間を達人と呼ぶ。つまり生きていることは無であり、幻想であるということを体で理解しなければならない。死後の世界も死も過去、未来も現在の意識のクオリアも全て幻想。人間にあるのは「現在」だけということを実に多面的にしつこく述べ続ける。
 とにかく死を考えることは生を考えることであり、本書によって生き生きと生きてもらいたいと哲学、思想としての仏教を熱く語る著者。本書の全編にわたって、生の瞬間も永遠の死の時間も愛も「今」をのぞいて全てが幻想であると、耳がタコになるほどお経のように同じことが反復される。どこから見ても死などはない。また人生には意味もないというのだ。「今」を情熱的に生きれば死は怖くない。ダッテ幻想ナンダカラ。
    ◇
 講談社・1575円/まえの・たかし 慶応大教授。『脳はなぜ「心」を作ったのか』『錯覚する脳』など。

関連記事

ページトップへ戻る