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マックス・ウェーバーの日本 [著]ヴォルフガング・シュヴェントカー

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2013年02月24日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■ドイツ以上になぜ読まれたのか

 本書は、日本のウェーバー研究の内容を、大正時代から現在にいたるまで詳細に検討するものである。実は、ウェーバーは日本で、ドイツで以上によく読まれてきた。にもかかわらず、日本人のウェーバー研究はドイツでほとんど知られていなかった。したがって、本書がドイツの読者にとって役立つことは当然であるが、日本人にとっても、いろいろと考えさせる事柄を含んでいる。
 日本は、非西洋圏で唯一、近代資本主義国家となった。その理由を問うために、日本人は特に、ウェーバーの理論を必要としたといえる。しかし、ウェーバーが広く読まれるようになったのは、1930年代、天皇制ファシズムが席巻し、マルクス主義運動が壊滅した時期である。ウェーバーの理論が必要となったのはその時である。では、ドイツでは、どうだったのか?
 その点に関して、著者は、興味深い出来事を記している。この時期、ドイツでは、マルクスやウェーバーを読むことが全面的に禁止されたが、日本ではある程度、学問の自由が保持された。その結果、ユダヤ系の哲学者レーヴィットが日本に亡命し、東北大で教えた。彼の書いた『ウェーバーとマルクス』がよく読まれ、日本のウェーバー・ブームの発端となった。一方、ドイツでは、ウェーバーは忘れられた。ウェーバーに対する態度の差異は、ここから生じた。
 日本でこの時代からウェーバーが読まれたのは、根本的に、マルクスを補うためであったといってよい。戦後でも、事情は同じである。たとえば、大塚久雄や丸山真男は、ウェーバーを掲げてマルクス主義を批判しているように見える。が、彼らは自分らこそ真にマルクス的だと考えていたのである。ウェーバーが日本で広く読まれたのは、そのような思想家がいたからであって、「ウェーバー研究者」のおかげではない。
    ◇
 野口雅弘ほか訳、みすず書房・7875円/Wolfgang Schwentker 53年、ドイツ生まれ。大阪大学教授。

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