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色川大吉歴史論集 近代の光と闇 [著]色川大吉

[評者]上丸洋一(本社編集委員)

[掲載]2013年03月03日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■「歴史の辛さ」ともにかみしめ

 天皇制の是非について2人の歴史学者が対談した。
 A「これは憲法にあきらかなように、すべて国民に任せるという気持です」
 B「国民が望むか望まないかの問題ですね、場合によっては天皇制は無くなってもよい」
 A「そういうことだと思います」
 B「昭和という元号についてはどうですか」
 A「西暦にしたらよいですよ。(元号は)なにかにつけ、とても不便です」
 Aは、昭和天皇の弟で古代オリエント史学者の三笠宮崇仁(たかひと)、Bは本書の著者色川大吉である。戦後すぐ、三笠宮は東大文学部で西洋史を、色川は日本史を学んだ。右のやりとりは、もともと1974年に月刊誌に掲載された対談の一節。三笠宮との交友をつづる本書収録のエッセーで紹介されている。
 「歴史論集」と題にうたうが、読みやすい内容だ。巻頭の「歴史家の見た宮沢賢治の光と闇」で著者は言う。
 ――賢治の作品は「暗くて悲しくて、読んでいて辛(つら)い」と学生らは言う。しかし、この辛さは実は賢治が生きた時代の辛さ、「歴史の辛さ」であり、その辛さに共感することが「賢治の時代の人びとへの哀悼なのだ」と。
 盛岡高等農林学校で賢治と意気投合した保阪嘉内、帝国憲法制定に先立って民主的な「五日市憲法草案」を起草した民権家の千葉卓三郎、町の芸者屋・鹿島家の「君ちゃん」……。著者は、歴史の闇の中に消え入ろうとする人物に光をあて、「歴史の辛さ」をともにかみしめる。
 中世史家の故網野善彦は、東大の3年後輩。日本の近現代にふれた網野の著書『日本社会の歴史』下巻(岩波新書)について、色川は「民衆を全く歴史の客体扱いし」ていると厳しく批判する。
 「(網野を)疑ってかかることから、歴史家網野善彦への真の理解もはじまる」
    ◇
 日本経済評論社・2940円/いろかわ・だいきち 25年生まれ。東京経済大名誉教授。『明治精神史』『ある昭和史』など。

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