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人間とミジンコがつながる世界認識 私説ミジンコ大全 [著]坂田明

[評者]鷲田清一(大谷大学教授・哲学)

[掲載]2013年03月03日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■炸裂する演奏につながる生物

 愛さないと見えないものがあるのかもしれない。この本のなかでさりげなく書きとめられているメダカの姿、水の流れくる方向に頭を向けて必死で止まっているメダカを愛(いと)おしむ坂田明の、その気持ちに惹(ひ)かれた。
 そしてそれよりさらに小さないのち、ミジンコ。坂田は、もう一方で、自力では泳げず、流れに身をまかせるほかない生き物、プランクトン(浮遊生物)にさらに深い思いをよせてきた。いじましいほど微(かす)かな存在であっても、湧くわ、湧くわ、いのちは開かれ、すぐに引き継がれてゆく。いのちのそんなむずむずに魅せられて、ミジンコを育てる装置を作り、「ゾロゾロチョコマカ」動きつづけるミジンコ観察の方法をあれこれ工夫し、顕微鏡をとおしてついに見た「生きている姿をモロに見せてくれる」その透明な体躯(たいく)に感動し、その形を精密に筆写したあと、碩学(せきがく)に会いに行って質問を連発する。
 そのなかで、「人類は自分たちの作ったシステムの巨大な流れの中でプランクトンのように流されながら生きている」、ひとは「人間の都合」でものを決めるがミジンコには「ミジンコの都合」がある、それぞれに「ジグソーパズルのワンピースとしての役割」がある……と思いいたる。
 ミジンコの名は「木っ端微塵(みじん)」の「微塵」に由来するという。「微塵子」は、日本のフリー・ジャズを切り拓(ひら)いてきた「パンク」坂田の、その炸裂(さくれつ)するサキソフォンにそのままつながっていたのだ。ちなみに本書にはCDも付録としてついており、うれしいことに、地下のライブハウスの紫煙のなかでのいななきではなく、透けたミジンコの体内を流れる液体のように透明な泣きにもふれることができる。被災地での鎮魂の儀において坂田が吹いたという“絶奏”には、置き去りにされた家畜やペットへの思いも込められていたらしく、それも聴いてみたかった。
    ◇
 晶文社・2625円/さかた・あきら 45年生まれ。サックス奏者。東京薬科大学生命科学部客員教授。

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