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漂流老人ホームレス社会 [著]森川すいめい

[評者]松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学)

[掲載]2013年03月10日

[ジャンル]社会

表紙画像

■表向きの平等が孤立に追いやる

 新宿西口にずらりと並ぶ段ボールハウスが話題になった時期があった。都内の大きな公園に、ブルーシートをテントのように使って暮らす人々がいた。公園から排除された後は、河川敷などで暮らしている人を見かける。なかには互いに助け合い、電化製品も使いこなして自由な生活をしている人もいるらしい。しかし、本書でとりあげられているのは、孤立し、もっとも弱い立場にいる人々だ。認知症、アルコール依存症、知的障がい、統合失調症……。自分の状態が把握できなくなっている人々に声をかけ、医療や福祉の現場に結びつけ、どこでどんなふうに暮らしたいかという、人間として当たり前の希望を口にできるように辛抱強く促していく。本書は、池袋でそのような活動をしているNPOの代表者が、活動の実態と、あるべき支援の形を伝えるために記したものだ。
 統計上は、ホームレスの数は減っているのだという。しかし、福祉事業の名のもとに、生活保護費をピンハネされる形で狭い部屋に押し込められている人々も相当数いるに違いない。「経済競争力の糧にならない人間」を、「どこかの施設に入れることで安心していないか」と、著者は問いかける。個々のケースを読むだけでも衝撃的だけれど、この本はさらに、人間の尊厳についての議論に、読者を引き込んでいく。ことに考えさせられるのは、「みんなが平等であることを前提とする社会は、人間を、ホームレス状態に押しやる」という著者の主張だ。表向きの機会均等が、ホームレス状態に陥った人々に「努力不足」のレッテルを貼ることになり、逆にその状態に封じ込めてしまう、というのだ。
 現代では誰でもホームレスになり得る。本書にも以前は会社社長だったホームレスが登場する。多くの人が自分の問題としてこのテーマに出会うことを期待したい。
    ◇
 朝日新聞出版・1470円/もりかわ・すいめい 73年生まれ。精神科医。NPO法人「TENOHASI」代表。

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