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カウントダウン・メルトダウン上・下 [著]船橋洋一

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2013年03月10日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■日本的システムの崩壊克明に

 3・11時の東京電力福島第一原子力発電所の事故は、いつの日か当事者がどのように行動したのか、明確に記録されるべきであった。それは次代への誠実な申し送りともいえた。本書はその役を担った書である。
 上下巻を一読したあとに、すぐに3点の読後感が浮かぶ。第一、事故の発端からひとまずの危機回避までを俯瞰(ふかん)。第二、当事者・関係者への濃密な取材でその言動、心理を克明に描写。第三、平易な記述でより深まる理解。この3点によって「同時代史の証言」となった。
 本書によって改めて多くの事実を知る。つまるところ、「木を見て、森を見ることが苦手」な菅元首相、「言われたことを仕方なくやる組織文化」の東電など当事者たちの体質はいかにも日本的システムそのものだ。当時の自民党とて曖昧(あいまい)な情報をもとに政争を仕掛けるなど挙国一致体制などとうてい無理。1号機の水素爆発から始まり、その後の海水注入、3号機の爆発以下、2号機、4号機と危機が迫ってくるなかで、日本的システムが一気に雪崩を打ったように崩壊していく。
 国民への情報発表、住民の避難をどの範囲に決定するか、その住民保護に苦悩する市町村長たちの怒りと涙、こうして現実が明らかになってくると、まるで太平洋戦争指導部の内幕に通じていると思えるほどだ。関東軍の体質を持つ東京電力、権力を振り回すものの現実を制御できない大本営に似る政府と政府関連の原子力機関。ルース米駐日大使ほかアメリカ側は、情報開示の不徹底に、「日本は支援される作法を知らないのではないか」と不満を漏らす。
 その中で、東電の吉田昌郎元所長が示した勇気や決断、「日本のことは日本が守る」との主体性を自覚した若手の官僚、政治家たちの使命感は特筆に値する。2年を経てなお残る課題に、この使命感はなぜ生かされないのだろうか。
    ◇
 文芸春秋・各1680円/ふなばし・よういち 44年生まれ。日本再建イニシアティブ理事長。元朝日新聞社主筆。

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