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飛雄馬、インドの星になれ! [著]古賀義章

[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)

[掲載]2013年03月10日

[ジャンル]経済

表紙画像

■ちゃぶ台返しにNG、交渉奮闘記

 昨年12月、インドの3大人気チャンネルの一つで、アニメ番組が始まった。番組名は「スーラジ ザ・ライジングスター」。あの「巨人の星」のインド版だ。本書は、番組の仕掛け人が放送までの紆余曲折(うよきょくせつ)を綴(つづ)る。
 学生時代にインドを放浪した著者は、「巨人の星」のインド輸出を思いつく。会社はチャレンジを承認したものの、部署は自分ひとり。不安を抱えたままインドに旅立つ。
 問題は山積していた。テレビ局をどうするか? 巨額の制作費は? 原作者は認めてくれるか? しかし、最大の問題は「巨人の星」がインドでウケるかだった。そもそも国民の大半は野球になじみがなく、ルールも知らない。
 そんな中、著者は大胆にも、設定をクリケットに変更し、難関を突破する。クリケットはインドにおける国民的スポーツで、お金持ちからスラムの少年まで浸透している。スター選手の知名度は抜群だ。
 若い頃はインド代表に選ばれるほどの選手で、いまはオートリクシャー(三輪タクシー)の運転手である父が、息子をスター選手に導くストーリーとなった。また神話的叙事詩『マハーバーラタ』をモチーフに再構成。「スーラジ」という主人公の名前は太陽神を暗示し、ライバルには雷神のイメージを付与した。
 しかし、問題はまだあった。インド側から「大リーグボール養成ギプス」が児童虐待にあたると問題視されたのだ。さらに、ちゃぶ台返しは食べ物を粗末にすると指摘され、父が酒を飲むシーンもNGとなった。一体どうすればいいのか。
 著者は、問題を一つ一つクリアし、原作の名シーンを残しつつ、放送開始にこぎつける。そのプロセスは抜群に面白い。
 本書は単なるビジネス成功本ではなく、興味深いインド文化論になっている。是非、日本でもスーラジの雄姿を見てみたい。
    ◇
 講談社・1365円/こが・よしあき 64年生まれ。講談社国際事業局担当部長、「クーリエ・ジャポン」元編集長。

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