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いきのびる魔法―いじめられている君へ [著]西原理恵子

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2013年03月17日

[ジャンル]教育

表紙画像

■胸に響く「うつくしいのはら」

 表題作は学校に行くといじめられるので嘘(うそ)をついてでもずる休みをしなさいと作者は反道徳的に子供をあおる。でないといじめられて自殺することになるよと。16歳まで待てば社会に出て働ける。働けば自由になれる。「自由は有料です」と作者は言う。ただでは手に入らないのだと。
 かと思うと並録の「うつくしいのはら」では、やたらと学校へ行けとうるさい。字をおぼえれば世の中のことが理解でき「商売ができ」て人に食べ物を与えられなくても働いて食べていけるからだ。
 ——と判断した若者は戦争に行き、そして外地で戦死してしまう。野原で腐乱死体になった若者を見つけた一人の女の子はこの男と語り合う。彼は「海のむこうのくにから」来てここで殺されたと言う。食べものをもらって家族を養うのは屈辱的だから兵隊になって稼ごうと思った。
 でも死んだ「今のほうがもっとみじめじゃないの?」と問う女の子に、男はこの方が青空しか見えなくて「らくちん」だと答える。彼女が死体を埋葬したら次の年にそこから空豆の木が生えた。そして何年かが経った頃、その空豆が彼女のお腹(なか)に宿って可愛い赤ちゃんが生まれた。この子供は「あの時の兵隊さん」であることを彼女は本能でわかっていた。
 母親になった女の子は子供の頃、親に言われたように息子に「字をならいなさい」と言う。そんなある晴れた日戦争が起こり、お母さんは死んでしまった。そんな死んだ母が、「今日はどんな字をならってきたの?」と息子に聞く。
 「うつくしいのはら」という字を習ったと答えた男の子は成長して軍隊に入り、そして美しい野原の中で敵の銃弾で死ぬ。そして死んだ彼は先に死んだ母と野原の中で対面する。母は「次にうまれて人になるために一つでも多くの言葉をおぼえましょう」と息子を励ます。何度読んでも胸に響く純文学的漫画絵本だ。
    ◇
 小学館・1050円/さいばら・りえこ 64年生まれ。漫画家。「毎日かあさん」などで手塚治虫文化賞短編賞など。

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